ある使い魔の粗相(2)
家に帰り、指を鳴らす。空気が揺れて、空中からダイアナが現れる。金髪のツインテールとワンピースの裾を揺らしながら、首を傾げて俺を見た。
「はぁい、お兄様。何のご用かしら」
「ダイアナ、何か俺に言うことはないか」
「言うこと? ……ええっと、掃除してるときにお皿を割っちゃったことかしら」
窺うように、青い目が俺を見上げる。黙っていると、尚も言葉は続いた。
「それじゃあ、ストックしてあったコーヒー豆を落としてダメにしてしまったこと? それともテストで赤点取っちゃったことかしら? もしかして先月、無断でマツリカの家にお泊まりしたこと? そ、それとも……」
「おいおい、そんなにあったのか。……まあ、いい。これだ」
先ほどマツリカから返してもらった本を掲げて見せる。ダイアナはぽかんとして暫く本を見つめていたが、やがて「ああ、それのこと」と呟いた。
「ダイアナ、お前、これをどこで手に入れたんだ。しかもそれを人間の女の子に渡すとはどういうつもりだ」
「この間、お家を掃除していたら見つけたのよ。なんだか古そうで何が書いてあるかもよくわからないし、テキトーに放り投げてあったからゴミなのかと思って、ポットの下に敷くのに使っていたのだけれど」
「…………」
まさかあの魔術書を鍋敷きにしていたとは。
「今日遊びに来たマツリカが興味を持っていたから、貸してあげたのよ」
まあ、筋は通っている。そもそも初めからゴミだと思っていたらしいから、許可を得ることも考えつかなかったのだろう。しかし……。
「あのなあ、ダイアナ。俺の持ち物が普通の本な訳ないだろう。奇跡も魔法も効かない特殊体質のお前だから誰も到達できないはずの地下書庫まで行けたんだろうし、お前だから、本を所持していても何ともなかったんだ。あのままマツリカに持たせていたらどうなっていたことか」
「……どうなっていたの?」
「……聞かないほうがいい」
それから、ダイアナは不用意に俺の所有する空間を歩き回らなくなった。ただ、掃除を頼んで断られる回数も増えて、少しだけ面倒が増したような気もしている。
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