愛撫

 甘い吐息が耳にかかると、体の力が抜けてしまう。がっしりした腕に抱きとめられながら、囁かれる愛にうっとりとする。耳朶をむ唇の感覚に背筋が粟立ち、息が漏れる。

「天使サマ……」

 悪魔の声が、耳から、私の中へ入ってくる。他のあらゆる領域に侵入してくる彼の細い指の代わりに、私の脳そのものを、甘い毒で駄目にする。低く、限りなく優しいその声に、溺れてしまう。

 嘗て、私の全ては主と、主に関する言葉で満たされていた。

 けれど、今は。

 私への想いを連ねる彼の声が、心も体も痺れさせる。上手く働かない思考で、彼への想いばかりが募っていく。全ての神経が、耳に集中している。

 もっと、もっと私を満たして。

 その声で、言葉で、私の心を撫でて。



お題「耳」で書きました。

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