仮想世界と不思議なバイト
@mirisano
第1話 白井 花音のとある朝
仮想都市。
流行り病が世界中で猛威を奮っている中、それに負けずと数多くの企業が自粛中でも家の中で旅行やショッピングを楽しめるようにと導入されつつある。
virtualReality、通称VR。今や、専用のゴーグルがあればどこへでも行ける便利な娯楽。
かたや、私も例に漏れずに、それを愛用している者の一人である。でも私はそんな娯楽のために使ってない、行くところもみんなが憧れるような海外でもアニメの世界でもない。そう、私が行くのは
『仮想都市』、通称:city
これは遊びではない、れっきとした仕事である。
ピピピッ・・・ガチャンッ
頭の上で鳴り響く目覚まし時計を止める。時刻は午前6時。カーテンから薄日がさしていた。
「・・・うぅー」
まだ眠たげな体を起こしていく。ベッドを降りると勉強道具が出しっぱなしにされている机が目に入った。ああ、昨日仮眠をとるつもりがそのまま朝まで眠ってしまった・・・
テスト期間、ということでもないが、勉強は色んな意味で必要になってくる。片付けるのも奥鬱で後回しにし、制服に着替えていく。通ってる高校は一般的には"可愛い制服”らしいが自分はあまりピンと来ない。だってどれもおんなじに見えるし、制服にそこまで求めてない。だったら私服にかけるなーというのが私の持論だった。青みがかったカットシャツに、黒のシンプルなスカートを履いて服装はこれで完璧。まだボサボサの髪の毛を整えるために下に下りる。リビングから人の気配とテレビの音声が漏れてくる。リビングを通りすぎて、洗面所に着く。いつもはヘアアイロンを手に、自分の髪と格闘している妹の姿がなかった。まだ起きてないのか・・・後でママに叩き起されるであろう妹を想像してフッと笑いが漏れる。コードをさして、暖かくなるまでの間に顔を洗う。水道から流れて出てくる冷水は染みてより一層目が覚める。蛇口をしめる。既に暖かくなったことを確認する。棚から取り出した愛用のクシを使ってとかしていく。ヘアオイルを全体につけ、ヘアアイロンで整えていく。変に巻いたりするのは校則違反となるのでただストレートになるようにする。違反だと分かっててやってる子もいるがすぐに崩れることが分かっているものに時間をかける必要などあるのかと思ってしまう。髪型が決まったところでヘアアイロンをしまう。洗面所を出てリビングの戸を開ける。パンの焦げた匂いと父親の使っている香水の匂いが鼻をかすめた。
「おはようー」
台所にたっているママに声をかける。
「おはようー、今日は早いのね」
目線はそのままにママは言った。確かにいつもは妹の方が早いが、今日は違う。あと、香水の匂いがしたのはお父さんが遅くに出たということを裏付ける。いつももっと早くに出るのに・・・テレビのリモコンを持って定位置につく。
「あ、そう。あんた宛に荷物届いてたわよ」
「うん?あ、そうだ、可愛い服あったから頼んでたんだ」
「テーブルの上に置いてない?あ、中は開けてないわよー」
「ありがとうー」
テーブルの隅に置かれていたダンボール箱に目をつける。手に持つと中でカサカサ音が鳴った。あれか・・・お決まりのように宛名はいかにもありそうな会社の名前だった。これから騙されるかもね・・・いつも届くこれの名前は誰がつけているのだろう?マスターは一人しかいないらしいが都市を管理するにはもっと人手がいるはず・・・てことは・・・
「あら、何突っ立てんの?もうご飯できたから後しなさーい」
いつの間にか後ろに立っていたママにそう言われる。バレないとはいえ、すぐさま箱を後ろに隠す。後で自分の部屋に置いてこ・・・テーブルに綺麗に並べられたお皿にはきつね色の食パンとスクランブルエッグにキャベツとトマト、市販のバターがあった。
「あ、何飲むー?コーヒーまだあるわよ」
「あ!!飲むー」
「分かったー」
コーヒーの美味しさに目覚めたのはついこないだだが、もうミルクいらずで飲めるようになったし少しづつ味がわかるような気がする。眠気覚ましにはちょうどいい飲み物だった。
「あ、そうだ」
母親がお湯の入ったやかんから目を離すとおもむろにドアを開けて
「茜ぇーーーー起きなさいー!!もう6時過ぎよー」
今日一番の声が家に響く。いつもはこの声に起こされるのは私なんだけどなーと思いながら、パンをかじる。
「はぁー疲れるわー」
そういうママだが、元吹奏楽部という経歴があるので説得力があんま無い。
少しして二階から物音がした。階段を降りる音が聞こえたかと思えば、ガチャッ!!と音をたててドアが開いた。
「おはようー」
まだパジャマ姿の妹、茜の姿がそこにあった。
「おはようーパン食べてー」
「おはよう、今日は遅かったじゃん。」
隣の席についた茜に話しかける。私より寝るのも起きるのも早いのに・・・まぁ、またゲームのやりすぎとかなんだろうけど。
「あぁー今やってるゲームでいい所まで行って・・・それで調子に乗ってやってたら一時で・・・」
それ見ろ。やっぱりなぁ・・・こういう時に姉妹というのは便利だ。
「ゲームもいいけど勉強ね」
「・・・はーい」
コーヒーの入ったカップを持ったママの言葉に相槌をうつ茜。
渡されたコーヒーは氷がたっぷりで飲むと冷たくて体のうちからすっきりする。ちなみに茜のはミルクたっぷりのもの。でも二人ともミルクティーよりかはカフェオレ派である。コーヒーを飲み終わると席をたって、キッチンに食器を運ぶ。
「ご馳走様ー」
そう言って洗面所で歯磨きを済ませる。終わると、
ダンボール箱を持って上に上がる。隣の茜の部屋が開いていたので閉める。細かいが、気になるので仕方ない。自室に入って散らかっている机の上に箱を置く。多分、中はいつも通り書類だから切らないようにカッターを使って丁寧に開けていく。ダンボール箱の中にはご丁寧にファイルに挟まれた書類があった。ファイルには仕事内容、報酬、時間、プレイヤーの人数等が書かれていた。
今日は、七時から・・・てことはご飯は六時くらいまでに済ませないとなぁ。
ピロンッ
机に置かれたスマホから音がした。
『マスターからメッセージ』
画面に映し出されたメッセージは無機質な感じがした。さすがは仮想都市の創立者と言うべきかな・・・
メッセージをタップしていつも仕事で使っているアプリを起動させる。ゲームで言うところのコミュニティみたいなところだ。一緒にやるプレイヤーは日によって変わる。基本グループ通話が主になっているのでこうして仕事がある時はマスターからメッセージが届く。
『グループA』
メッセージにあったのはそれだった。
『参加しますか?』選択画面に進んで迷わず『はい』を押す。
『シロネKanonがグループAに参加しました。
残り二人』
基本的にグループは四人〜三人。ゲームのように思えるがちゃんと報酬の出る仕事なので無断で休むと罰として一週間『city』の出入り禁止を命じられる。みんな、仕事以外でも出入りしている人が大半なので素直に守っている。
そしてプレイヤーの全員が私と同じ『高校生』
全国各地から集められてるようで生まれも育ちも全く違う。
そして、『マスター』私たちのいわゆるボス、でもその姿を見たものは誰もいない。会話もメッセージのみ、男であることはわかっているがそれ以外は何も知らない。あるやつはAIだと言ってみたり、ベンチャー企業の社長だと言ってみたり、色んな予測がなされているがその正体を暴けたものは誰もいない。でも年上な気がするんだよな、話し方も説明の仕方も全部大人っぽさが混じっている。机の引き出しに書類をしまう。ま、今日も除去だからやることは変わらないんだけどね。仕事内容が送られてくる割には変わらないのでいつも不思議に思う。ベッドの近くに置いたままのリュクサックの中に散らばった勉強道具をしまう。友達の中には大半を学校に置いていく子もいるが、仕事の関係上、勉強しないと困ることもあるので渋々やっている。チャックを閉めて背負う。スマホと財布を小さなバックに入れて自室をでる。ちょうど妹が上に上がってきた頃だった。
「あ、いってらー」
「う、いってきまーす」
そんな会話を交わし、階段を降りる。
「あら、もう行くのー?弁当忘れないでねー」
「あ!!」
玄関に向かおうとした足を止める。急いでリビングに向かう。ママから出来たてのお弁当を貰う。
「ありがとうー昼ごはんなしになるところだったー」
「ふふっ少しはしっかりなさいね、行ってらっしゃい」
「いってきまーす」
玄関で靴を履いてドアを開ける。朝のこの時間帯でも照りつける日は容赦ない。9月にもなって少しは涼しくなるかと思ったが、まだ駄目か。学校まで最寄り駅から二駅先のところにある。歩き始めて日傘を持ってないことに気付く。家からは結構離れてしまった。しょうがないか・・・日差しは女の敵というが、そこまで気にしてない私にとってあまり馴染みのない言葉だったりする。暑さが少しでもマシになればという理由で使っている。仕方なく、足を先に進める。駅まではあと少し、ちょっとの我慢と自分に言いつける。
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