第14話 死線

「如月君、もう一度確認するけど私はあの魔獣の足止めをすればいいのね?」


「うん」


「わかったわ。それならこの魔法で、あの魔獣の足を止める!!」



 月城さんが放つ炎のカーテン。その真っ赤に燃え上がるカーテンは魔獣に絡みついたまま離れない。

 魔獣も嫌がっているのか左右に動いて炎を振り払おうとするが、魔獣にまとわりついた炎は一向に離れる気配がなかった。



「オォォォォ!!」


「すごい!! 魔獣が動いても、炎が全く全く離れない」」



 あの攻撃は敵が動くところに合わせて炎を動かさないといけないので、魔法をコントロールをする繊細な技術が求められる。

 それを寸分たがわず魔獣の動きに合わせてぴったり動かしているなんて、高校生が一長一短でできる技術ではない。



「月城さん、かなり練習したんだな」



 魔法のセンスも必要ではあるが、この魔法は練習量も必要な物である。

 だから月城さんが普段どれだけ努力をしているかが、手に取るようにわかった。



「これだけ攻撃しているのに、相手は傷一つつかないのね」


「傷どころか、魔法が全く効いてない」



 魔獣は熱いという感覚はあるのだろう。だから身をねじったりして、炎から逃れようとしている。。

 だけどそれは熱いだけで致命傷にはなっていない。現に魔獣は炎に包まれる中、炎から逃れようと逃げている。



「見て、月城さん!! あいつの体、炎で焼ける度に自然と治ってる!!」


「自然治癒能力を持っているみたいね」


「いや、あの治り方はそんな生易しいもじゃないよ」


「どういう事?」


「治るというよりは、まるで焼けた事なんてなかったかのような復元具合なんだ」



 さっきは気づかなかったけど、じっくりと様子を観察した今ならわかる。

 あれは怪我が治るとか、そう言った次元の話じゃない。



「あの魔獣はもしかしたら死にたいけど死ねないのかもね」


「まるで生と言う名の牢獄に捕らわれているみたい」


「囚われているというよりは、存在自体がゴキブリみたいね」


「ゴッ、ゴキブリ!? その例えはちょっとどうかと思うけど‥‥‥」


「生命力が強い時点でどちらも変わらないわよ」


「あはははは」



 ゴキブリと魔獣を一緒にするなんて、月城さんらしくない発言のように思える。

 学校ではもう少し清楚でおしとやかなイメージがあったけど、今の印象は負けず嫌いで強気な女の子のように見えた。



「確認だけど月城さん、あれは本当に魔獣なの? 違う生物じゃない?」


「間違いなく魔獣ね。一見して人間のように見えるけど、あの特徴的な毒のような紫色の姿は間違いなく魔獣よ」


「よかった。それなら安心だ」


「えっ!?」


「魔獣だと思っていた殺した相手が人間だったら、寝覚めが悪いからさ」



 大きく息を吸い込み、持っていた果物ナイフを強く握りしめる。

 そして僕は右目に着けていた眼帯を掴み、力いっぱい外す。



「ちょっと、如月君!? 眼帯を外しても大丈夫なの!?」


「問題ないよ。少し体に負担がかかるだけだから」


「体に負担がかかる? 眼帯外すだけで体の負担がかかるなんて事があるの!?」


「それよりも月城さん!! 魔法で魔獣の足止めをお願い!!」


「わかったわ!!」



 月城さんが魔法で追撃をしてくれる間に、僕も準備を整えないといけない。

 恐る恐る僕は瞑っていた右目をゆっくりと開けた。



「この景色‥‥‥久々だ」



 目を開いた瞬間、世界が変わった。

 いままで何もなかった世界がに包まれる。

 道路や柱ゴミ箱等、ありとあらゆる所に傷後のような線が浮かんだ。



「如月君!! その青い目は‥‥‥」


「ごめん月城さん、今はゆっくり話している暇はないんだ」



 こうしている間にも頭がズキズキと痛む。

 望のお父さんの話だと、この能力を使うと僕の脳が全ての情報を処理しきれなくてオーバーヒートする為痛むらしい。



「うっ!?」


「如月君!? 大丈夫なの!?」


「僕の事は気にしないで!! 今は魔獣の足止めを!!」


「っつ!! わかったわ」



 ふらつく足に力を込めてその場に踏ん張る。正直頭が痛くて、立っているのもやっとの状態だ。



「出来るだけ早く決着をつけないと。僕が倒れる前に」


「アァァァァァァ!!」


「行くぞ!!」



 魔獣も僕の様子に気づいたようで、襲い掛かってくる

 月城さんより弱い僕を襲った方が楽だと思ったのだろう。

 体が燃えているにも関わらず、僕の方へと走ってくる。



「アァァァァ!!」


「駄目!! 如月君!! 避けて!!」


「大丈夫だから、心配しないで」



 僕が炎の中に見えたを果物ナイフでなぞると、今まで魔獣を纏っていた炎が焼失した。



「えっ!? 私の魔法が無効化されたの!?」


「アァァァ」



 魔獣も僕の異質さに気づいたようで、急停止して僕から距離を取ろうとする。

 だがそれを逃す僕ではない。離れようとした魔獣にすぐさま近づく。



「逃がさないよ」


「アァァァァ!!」



 月城さんはこの魔獣は殺せないと言ったけど、僕には見えている。

 魔獣を殺す為の線。死線が。体の至る所に現れている。



「まずは両腕から」


「グアッ!!」



 逃げられないと悟り、僕の手を掴もうとする両腕の線を果物ナイフで優しくなぞる。

 なぞるだけで魔獣の腕が簡単に落ちた。



「アァ!?」


「次は足だ」



 逃げようとする足に向かって、果物ナイフで優しくなぞる。

 右足をなぞると、その場で膝をつき動かなくなった。



「グアァァァ!!」


「如月君!!」



 あの魔獣が恐怖におののいている。その魔獣の胸に優しくナイフを指す。



「アァァァァァァァ!!」


「これで最後。地獄でゆっくり眠ってて」



 今まで聞いたことのないような断末魔をあげながら、魔獣はその場から動かなくなる。

 先程まで魔法で攻撃しても、ナイフで刺しても平然としていた魔獣があっさりと倒れた。



「何‥‥‥何が起こってるの!?」



 月城さんがそう言うのも無理はないだろう。

 僕の目の前にいる魔獣の体が痙攣し、体が徐々に崩れていく。



「アッ‥‥‥アッ‥‥‥」


「不死の存在なんていない」



 それは僕自身が誰よりもわかっている。

 生きている物は誰でも死ぬんだと、この体に痛い程刻みつけられてきた。



「生きてるものなら誰だって殺す。そう‥‥‥たとえ神様でも」



 目の前で体を崩壊させる魔獣を見ながら、僕はぼそっと独り言を言うのだった。



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