最弱ギルドの最強ギルドマスター
長尾隆生
第1話 99連続の『不採用』
「アルマだったな。君は不採用だ」
冒険者ギルド『ナガーゴ』の一室で僕はこのギルドの職員からそう告げられた。
「どうしてですか?」
「我がギルドは君のようなおこちゃまは求めていないということさ」
「おこ……。これでも僕は15歳で、あと二ヶ月で16――成人になります!」
「つまり君はまだ成人じゃないってことだろ。わかったらさっさと帰ってくれないか? 私も忙しいんでね」
これで99件目の『お断り』だ。
このレムレリア王国にあるギルドは全部で100。
つまり、あと一個を残して全ての冒険者ギルドで僕は就職を断られたことになる。
というのも今は殆どのギルドでは僕のような成人前の子供は募集すらしていないと言われる始末。
希に募集があったとしても、たいていの場合『受付嬢』の募集で、僕は門前払いであった。
いや、一度だけ採用になりかけたことがある。
その時の担当者は僕を見るなり『女装して男の娘として受付をやるなら採用しよう!』と言ってのけたのだ。
流石に僕にはそんな趣味は無く、記憶に有る限り唯一僕の方から『お断り』してそのギルドを飛び出した記憶がある。
「でもまさかここまで狭き門だとは思わなかったよ。あの時、少し我慢してでも受けた方が良かったのかなぁ」
僕はため息をつきながら冒険者ギルド『ナガーゴ』のギルド本部から外に出た。
残るはあと一つ。
レムレリア王国のギルドランキングで常に最下位をひた走る冒険者ギルド『ナール』だけだ。
確か王国の遙か東の辺境地にある小さな町の名前がナールだったはずだから、もしかしたらそこの出身者が作ったギルドなのかもしれない。
この国において冒険者ギルドとは一つの大きな組織を指す物ではない。
他国では中央に大きな冒険者ギルド本部があり、各町にその支部があるのが普通らしいのだが、この町ではそれぞれの冒険者ギルドは独立したグループとなっていて、それぞれが別々に活動をしている。
そしてその各ギルドは他国と違い全て国の管理下にあった。
つまり他国における冒険者ギルド本部の役割をレムレリア王国のギルド省という部署が行っていて、各ギルドは他国でいうギルド支部という訳である。
ギルド省の仕事は各ギルドに依頼の配分を行ったり、一つのギルドでは達成できないような高難易度依頼があった場合は個別のギルド同士に指示を出し協力させたり、なにかしらギルド間で問題が起こった場合の対処をしたりといったものだが、その中でこの国の『それぞれが独立したギルド組織』という独特の仕組みから生まれた他国に無い制度があった。
それが先ほど僕が呟いた『ランキング』である。
年に一度、各ギルドが達成した依頼の貢献度によって決まるそのランキングは、そのまま国や国民からの信頼度や報酬に繋がっていた。
わかりやすくいえば上位の有名ギルドには『割の良い仕事』や『名声に繋がる仕事』が押し寄せることになる。
そして有名ギルド御用達という看板ほしさに商人や職人も彼らに取り入るため質の良い品物を安く提供してくれたりするのだ。
結果的に彼らは常に上位をキープし続けることが出来、よほどのことが無いとランキングトップ10は変わらないと言われる所以である。
もちろん上位陣は上位陣で熾烈な順位争いを常に行っているのだが。
「最下位のギルドかぁ……ここでもお断りされたらもう諦めよう。そして冒険者になろう」
僕が99件もお断りされてもまだ冒険者ギルドへ就職しようとしているのには特に理由はない。
強いていえば『意地』だろうか。
最初に僕が雇って欲しいと向かったのは冒険者ギルド『セブンレイブン』だった。
セブンレイブンはここ3年ほどギルドランクのトップを維持し続けているギルドで、もちろん僕は担当者に取り次ぎさえしてもらえず門前払い。
「坊やのようなひ弱で貧乏そうな子供が来る所じゃないのよ」
そう言い放った受付嬢と、その近くで僕を馬鹿にするように嘲っていたセブンレイブンのメンバーたちの態度に意地になってしまったのだ。
「覚えてろよ。いつか僕を門前払いしたことを後悔させてやるからな」
その時の僕は他のギルドに就職して『セブンレイブン』を見返してやると息巻いていた。
だけどまさかその後98ものギルドから同じような扱いを受けるとは思わなかった。
「はぁ……」
正直に言えば今さら最下位のギルドに就職出来たとしても彼らを見返せるとは思っていない。
むしろ最下位のギルドに勤めるギルド員とトップのギルドに勤めるギルド員は雲泥の差で、更に馬鹿にされるに違いない。
だけど僕の足は既に最下位の冒険者ギルド『ナール』の支部がある貧民街へ向かっていた。
王国に存在するギルドは100。
その中でも『ナール』は創立から常に最下位であるという。
99位から上のギルドは1~10位、11~30位、31~60位、61~99位程度の間で常に順位が入れ替わっているのに『ナール』だけは常に最下位をキープし続けている。
トップクラスのギルドには優良な依頼が集まり、商人たちの扱いも良くなる。
ということはその真逆の最下位ギルドに対してはどうなのかは自明の理。
冷静に考えてそんなギルドの職員になるなんて馬鹿げている。
だけど僕の足は自然にそのギルドへ向かって着実に歩みを進めていくのだった。
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