第17話 真夏の夜の夢と霧の午後の融合

夏至、一年で最も好きな日。毎年、ささやかながら真夏の夜の夢的宴を庭で開き、同時にストーンヘンジからの中継をチェックする。


巨石群の向こうに沈む太陽。それは特別だ。しかしここ数年は雨だったり曇りだったり*。集まっている多くの人が残念に思っているだろう。けれどその光景に、私は密かに胸高鳴らせていた。


というのも、そんな曇天の光景が、印象深い遠い日を彷彿とさせるからだ。初めてストーンヘンジを見たのは寒い冬の日で、恐るべき濃霧だった。バースも回る小さなバスツアー。時期のせいなのか天気のせいなのか、現地には観光客の姿はほぼ皆無。着込んだコートを濡らすほどの霧の中、私はストーンヘンジと対面した。


物言わぬ遺跡は圧巻だった。白の中に佇む姿はどこまでも静かなのに、抗えない何かが押し寄せてきて、霧の中から今にも何かが飛び出してくるのではと、胸のざわめきは最高潮に達した。


もちろんそんなことが起きるはずもない。それでも私の中に何かが残された。何かが訪れそっと胸の奥に触れていったような、そんな気配が消えることはなかった。


ちょうどエジプトの遺跡をあれこれ見てきたあとで、時を超える要素には随分と慣れたように思っていたけれど、寡黙で苔むした世界は砂漠のそれとはまた別の次元で私を魅了した。霧のストーンヘンジを独り占め。それはもう二度とない贅沢に違いない。


そんなわけであの空間は霧雨降る白の中で完結している。日没の輝きも美しいとは思うしいつか見てみたいとも思う。純粋に巨石の持つ力を信じているし好んでいるからだ。けれど今は中継で十分。なぜなら、そうすればそこには私しかいないから。私がストーンヘンジに求めるもの。それは熱狂ではなく沈黙なのだ。


だから夏至には違う喜びを堪能する。シェイクスピアの妖精たちの大騒ぎを模して、夏の夜の浮かれた時間を楽しみながら、時折、その熱の向こうに広がる霧の世界を想うのだ。一年で一番長い昼が、圧倒的な白に飲まれていく様は、幻想的というしかない。魔法がかかったように美しい。これぞ英国だと、庭で一人大いに満足している。







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