第14話 オレンジみたいな太陽沈む砂埃の町

大学時代、エジプトの地方都市の大学研修に、3週間ほど参加する機会があった。


色々あって予定していた寮に入れず町中に部屋を取った。学園都市といっても大学を一歩出れば何もない田舎町だ。それはホテルとは名ばかりの雑居ビルだった。


窓の向こうには隣の建物の屋上。その四隅には突き出した鉄筋が空を向いたまま。途中でやめてしまったのか、もともとそういう計画だったのか、それとも未来に何かを求めているのか。


朝、その建物の一階のドアが開いたと思ったら、大きな籠を抱えた女性が出てきた。続いて子供達が、犬が猫が鶏が……。まさか寝るのも一緒なのかと激しく動揺しつつも、いつしか毎朝の行進は楽しみになる。


朝食の後、迎えのバスを待っていれば、少年が買ったばかりのむき出しのパンをためらいもなく足元に投げ置く。用を済ませた後、またひょいとそれを小脇に抱え直す。


砂埃? 払えば問題ないさ。


とにかくカルチャーショックの連続だった。しかし、そんな光景にもすぐに慣れた。いつの間にか私も町の人と同じように考えるようになっていたからだ。インシャラー、すべてはアッラーの御心のままに。細かいことは気にしない。郷に入れば郷に従えだ。


とは言え、生活にフィットできたわけではない。オレンジ1つ買うにも高いわ安いわと毎度大揉め。シャワーの後に濡れ髪のまま飛び出せば、路地から伸びてきた小さな手に髪を握られてキャアキャア騒がれる。自分が悪いのは百も承知だから文句は言わないけれど心臓に悪い。苦笑いしながら小さな手を振りほどいて急ぐ。そんな繰り返しだ。


ある夕方は、帰って来たら隣の部屋にいたクラスメイトが、バスルームに干していたお気に入りの下着がなくなったと荒れていた。「私のパンツはチップじゃないわよ!」と息巻くのをなだめつつ乾燥ナツメヤシを摘まみ、テキストを開いて予習復習。


そんな風に、なんとも埃っぽくてけたたましくて、問題だらけでしっちゃかめっちゃかだった研修期間。だけど、カイロに戻ってきて星のたくさん並んだ小ぎれいなホテルに泊まり、ナイル川の見えるテラスでよく冷えたオレンジを剥いていたら、そんな喧騒がたまらなく懐かしく思えた。

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