肝試し

 これは、視える体質の友人が聞かせてくれた話だ。


 彼がまだ専門学生だった頃。

地元の友人に呼び出され、五人で遊んでいた時の事。

 一通り遊び終え、夕飯を食べていると、友人の一人の阿久津がこう言った。

「心霊スポット行こうぜ!」

 友人はもちもん反対したが、言い出した阿久津、米田、宇佐見は、もともとよく行っており、米田と宇佐見は大賛成だった。

残りの西岡も反対したが、半ば押し切られる形で、心霊スポットに行くことになった。

 その場所は、某廃ホテルで、地元ではかなり有名で、なおかつ霊の強い場所だったので、友人は改めて反対したが、聞き入れられることはなかった。


 目的の廃ホテルに到着すると、その雰囲気に全員が息を飲んだ。

 時間は深夜、暗闇の中にそびえ立つ建物が恐怖を煽り、またその恐怖が阿久津、米田、宇佐見の三人を興奮させた。

西岡はこの時点から怯えきり、しきりに帰りたいと呟いていた。

「最上階の一番奥の部屋にでるらしいぜ」

阿久津が楽しそうに言った。

米田と宇佐見は、そこまで行こうと、意気揚々と歩き出した。

 三人の後ろを歩いていると、視界に何かが写る。

そちらをちらっと見ると、そこには女の人がこちらをじっと見ながら立っていた。

 そこは、先程阿久津が話していた、最上階の奥の部屋だった。

友人は目が合わないよう、すこしうつむきながら歩いていった。


 ホテルの中は荒れ果てていた。

落書きされた壁、剥がれ落ちた天井、今にも抜けそうな床、割れた窓ガラス。

まさに廃墟だ。

 彼らは、五人で固まり、少しずつ進んでいく。

すると、どこかで何かが落ちて割れる音がした。

全員がビクッとなり、恐怖で固まる。

「はは……何か落ちたのかな……」

 米田はごまかすように笑った。

 その後も、ロッカーの開閉音、物が倒れるような音、聞こえるはずのない水の音など、数々の恐怖が彼らを襲った。

 しかし、何度友人が帰るよう促しても、西岡以外の三人は帰ろうとしなかった。

 そしてついに最上階に到着した。

一つずつ部屋を見ていく。

 奥へ行けば行くほど、空気が変わっていくのがわかった。

明らかに歓迎されていない。

それがひしひしと伝わってきた。

 その時、宇佐見が持っていた懐中電灯を落とした。

それは転がって、友人の足元にたどり着く。

「おい、何やってんだよ……」

そう言って懐中電灯を拾おうとした時、ライトが照らす先に違和感を覚えた。

 そこは例の一番奥の部屋。

ボロボロのソファが置かれたその下をライトが照らす。

「おい、斎藤。どした……」

なかなか拾わない友人に声をかけながら、阿久津がしゃがみ込み、友人と同じ方向を見る。

 二人は、その違和感が何なのか気になり、少しずつ前に進んでいく。

 すると、ソファの下で何かが動く。

それは横向きに寝転がり、こちらを物凄い形相で見ている女だった。

女は何かを喋りながら、顔を動かしている。

その顔は、入る前に窓からこちらを見ていたあの女だった。

 友人と阿久津は、恐怖のあまり大声で叫び、出口へと走り出した。

他の三人は、その声に驚き、二人を追うように走り出す。

 五人は、振り返らず車まで走り、急いで車を発進させた。

友人が、車の中から先程の部屋をちらりと見ると、そこには先程の女がこちらを見下ろす姿があった。

友人は、ただただ心の中で謝り続けたそうだ。

 その後、阿久津はショックを受けるどころか「初めて幽霊見た」と興奮していたそうで、友人は「もうついていけない」とため息をもらしていた。

 友人が、「唯一の救いは、最後に見た女性の顔が、恐ろしい形相では無かったことだ」と言っていた。

廃墟ならともかく、心霊スポットなんて行くものではないとしみじみと語っていたのが印象深かった。


 私は、心霊スポットに行ったことはないが、これからも行くことはないだろうと改めて思った話だった。

 あなたは、それでも行きますか……?

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