第18話 「決心した!」
僕は、ある決心をする。
残りわずかな僕の人生、これから一体どうすればいいかを。
決め手となったのは、チビがまたいじめられて帰ってきたからだ。
クラスに一人、まだしつこくちょっかいを出すヤツがいるという。
チビは僕の分身だ。僕自身をいじめられた気がして、無性に腹が立った。やられっぱなしではいけない。なんとかしてやらなければ。
チビに、
「嫌なものは嫌と言えばいいじゃん」
そう言いかけて、はっとした。
大人になった僕は偉そうなこと言ってるけど、子ども頃の僕だって歯向かう勇気なんてなかった。
もし当時立ち向かえていたら、いじめっ子に一目置かれたかもな。自分に自信が持てただろうな。スクールカースト、ちょっとは違った景色だったかも。大人になってまでいつまでも人見知りで、自分のやりたい事も満足に貫けない、そんな情けない人生じゃなかったかもな。
今の僕の頭で、小学生の頃の自分に戻れたらな。きっと大人の知識でうまく乗り越えられるだろう。
すると頭の中で、ある光景がフラッシュバックした。
就活の面接官のあの質問だ。
「あなたはタイムマシンで過去へ行きました。
そこで出会ったのは、子どもの頃の自分。
未来から来たあなたは、一体何を伝えますか?」
何を伝えますか…?
伝える…
はっと、した。
そうか…そうだ、これだ!
答えが出たかも。
時間がかかったが、ようやく今、分かったような気がする。
僕の命はあとわずか。
明日か明後日か、いつ死がおとずれるかわからない。
そんな自分が今、何をすべきか?
自分なりに残された時間を一番有効に使うにはどうしたらいいか?
僕は気がついた。
そして、決心した。
「インストールしよう。」
僕の人生を、この”小さな僕”に伝えよう。インストールしよう。
地味で値打ち無いかもしれないけど、僕の人生をこのチビにインストールして人生を託そう。
僕の知ってること、役に立ちそうなこと、全部教えてやろう。僕がいなくなっても、チビが困らないように。
チビはクローン。僕と同じような人生を送る可能性は高い。これから似たようなトラブルや悩みに出会うに違いない。そういう時、自分の力で乗り越えてほしい。
残されている時間がわずかなら、チビにすべてを託すことが、最も意味のあることに違いない。ぜんぶチビに伝えきって、悔いのない人生の閉じ方としよう。
僕の意思をチビが持って生き続けてくれたら、たとえ僕の肉体が滅ぼうとも、その意思は次の世代へつながっていくかもしれない。
いや、なんならぼくの気持ちはどうでもいい。
このチビが無事に生き続けてくれたら、それだけでいい。
それだけで、未来の途切れた僕でも、未来を感じられる気がする。
ただただ、未来を感じられる気が。
それまでは、僕自身、恥ずかしくない生き方をしよう。
心を入れ替えた僕の姿を見て、生き方を学んでほしい。
「なんで空は青いの?」
「なんでパンダはしろくろなの?」
今度から面倒くさがらず、教えてやろう。
ちゃんと向き合おう。
チビと。つまりは僕自身と。
(つづく)
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