Ⅲ リコレクションズ・オブ・チョコレート
小休止のプラリネ
今年から、毎週水曜日はスイートラジオの定休日だ。水曜日の今日、私は祝日なのをいいことに、茂樹くんがしているスイートラジオの元祖ノーマルビターチョコレート復活に向けた研究を手伝っている。というか、作業の片付けを担当している。
「テンパリング温度はこれで間違いないはずなんだけどなあ……原料も問題なさそうなのに……一体何が問題なんだろう」
茂樹くんは三冊目の研究ノートに、30回目の実験失敗を記録した。
「2月23日、失敗……っと」
「これ……何かが違うよね」
「それは分かってるんだけどさ」
「元のチョコレート、成分分析はできないの?」
「広島大学に依頼して味覚センサーで検査してもらったよ」
「成分は?」
「ごく一般的な原料だね。脂肪分の分量がこれより2%少ない以外は」
「……脂肪分はどうやって抜いてるの?」
「そこがわからない」
「脱脂粉乳は?」
「使ってみたけど駄目だったよ……カカオバターを減らすわけにもいかないし、どうしたものか」
「どうやったら油が減るんだろう」
「……待てよ」
「どうしたの?」
「カカオバター自体の脂肪分を減らしてみれば良いのか」
「どうやるの?」
「この前、脂肪分が2%低い低質のカカオバターを買ってきたんだ」
「やってみる?」
「ああ。カカオバターを変えてやってみよう」
私たちは
「今日はどこへ行くの?」
「服を買いに行こうかなと思ってね」
茂樹くんはそう言って、
「これとかどう?」
「いいんじゃない?似合ってると思うよ」
「じゃあこれかな」
茂樹くんは3着の服を買うと、私に聞いた。
「どこに行きたい?」
「モリブデン415で」
「わかった」
モリブデン415の扉を引くと、魚村が待っていた。
「いやぁ……小林優花さん、急なご来店ですね」
「お礼を言おうと思ったので」
「魚村くん、久しぶりですね」
「山店長、お久しぶりです」
「優花さん、もしかしてこれは」
「いや、色々知りたかったからね」
「まあ時効でしょうから……話してくれますか?」
「ええ。何から聞きたいですか?」
「まずはお金の話から」
「あれですか。あれは君の履歴書に店を開くためのノウハウを知りたいとあったからですね。お金自体は貯金から出しました」
「なるほど……納得できるのは山店長が話しているからでしょうね」
「続いて僕が君に直接会わず、優花さんに会ってもらった件についてですが……僕がつけられた場合は情報の重要度が上がって厄介だと思ったからです。なにはともあれ、あのときはお世話になりましたよ、魚村くん」
「いえいえ。さすが私が尊敬する山店長ですよ」
「ありがとうございます。コーヒーをいただいて構いませんか」
「どうぞ。ついでと言ってはなんですがコーヒーシフォンケーキもいかがでしょう」
「ありがとうございます。優花さんは何がいい?」
「コーヒーとプレーンシフォンケーキで」
「かしこまりました」
私たちはモリブデン415のシフォンケーキを堪能した。シフォンケーキは口の中に入れると溶けるような食感で、非常に美味しかった。
家に帰った私たちは、スイートラジオの居住スペースのキッチンでチョコレートの香りをまとう調理器具を洗ってから夕食の支度をはじめた。
「ところでカウンターに置いてあるプラモデルって、いつ作ってるの?」
「あれ僕は作ってないんだよね」
「え?じゃあ誰かからもらってるの?」
「うん。ある人からね」
「え、誰?」
「秘密にしてくれって言われてるんだよね……」
「そうなんだ」
「今月のあれは何かわかるかい?」
「
「そうそう、大瑠皇紀シーズン2に出てくる瑠国の新型旗艦『拔0002 タンバ』だね。今度店内に置く鳩時計の鳩の代役になる予定だよ」
「大瑠皇紀ってどんな話だったっけ」
「時は西暦2836年、地球連邦はそれまで戦っていた瑠国と呼ばれる宇宙国家と平和条約を結び国交を樹立した。瑠国の歴史を知り、瑠国の歴史を収めた歴史書を刊行するために地球連邦政府は歴史研究者
「あー、そうだったね。兵機人ってたしか背後で操られてなかったっけ」
「ラソン帝国かな?」
「そうそう。須崎さんって最強キャラだよね、かっこいいのにかわいいし」
私たちは意外な共通話題を見つけ、午後9時頃まで語り合っていた。
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