第3話 アニオタの日常
学校が終わり、夕方に家に帰ってきて宿題と予習を済ませると毎日楽しみにしている趣味の時間だ。
俺は自室にこもり、パソコンを開いた。
アニメはハードディスクレコーダーで録画した分を見ることもあるがパソコンやスマホなどのインターネット端末から配信サイトで見ることも多い。
なぜなら俺の部屋には自分専用のテレビがなくて、テレビとハードディスクレコーダーは家族共用のリビングと両親の部屋にあるのみだからだ。
一つのウィンドウでアニメを再生して、アニメを見ながら別ウインドウを画面上に二つ同時に開き、アニメを見ながらネットで様々なニュースサイトや掲示板、SNSを見るのが俺の娯楽スタイルだ。
もちろんアニメ好きとしてはきちんと月額料金を支払って配信サイトから公式配信を視聴する。
違法アップロードの無料動画ではなく、きちんとアニメにはお金を払うスタイルだ。
そして気に入ったアニメがあればブルーレイといった円盤を買ってもいい。
今日も配信開始されたばかりのアニメ更新一覧から視聴継続中のアニメの最新話を再生する。
「はー、やっぱりアニメ最高」
俺はウインドウで再生しているアニメを視聴しながらそう呟いた。
毎シーズン放送されている新作アニメを見るひと時はやはり俺にとっては幸福の時間なのだ。
このアニメを見る時があるからこそ、学校生活も厳しい試練も耐えられるといったものだ。
そしてアニメを再生している一方、別ウインドウではツイッターのタイムラインを眺めていた。
俺は中学時代に自分のスマートフォンを持たせてもらったことが始まりで「オクタン」という名前でツイッターのアカウントを作り、以降数年間ツイッターをやっている。
プロフィール欄にはアニメやゲームが大好きで毎週新作アニメをたくさん見ていることなどとにかく幅広いジャンルが好きな高校生ということを書いている。
高校生とわざわざ年齢を公開しているのは、より年齢の近い趣味の合う人とフォロワーとして繋がれるようにだ。
年齢が離れている人とはやはり思考が合わない、なんてこともSNSではよくある話なのだ。
学生には社会人など年上の人達とはやはり考え方や思想に論点がずれる場合がある。
その点同世代や年の近い中学生や大学生などであればやはり年齢が近い分話が合う。
あえて年齢を公開することでより価値観が近い人をフォローできるようにだ。
フォローしているのは主にアニメの公式アカウントに制作会社会社のアカウント、 声優やアニメ系ソングアーティストなどのアニメ関連の著名人などだ。
そして何よりやはりフォロワーに多いのは同じくアニメが大好きないわゆる自分と同じ属性のオタクに分類される「アニメクラスタ」と呼ばれる人々だ。
ツイッターを始めてから、毎日のようにタイムラインには新しい情報やニュースが流れてくる。アニメの公式イベントやアプリの新作情報といったものだ。
そして同じくアニメ好きなフォロワー達の日々のアニメ感想ツイートが流れる。。
ツイッターはリアルタイムで様々な情報が次々と入ってくるために飽きない。
アニメを見ながらツイッターのタイムラインを眺める、このスタイルだ。
ちなみに俺はアニメクラスタで年の近い高校生という人をたくさんフォローしたのでフォロワーが約五千人ほどいる。
アニメクラスタ、という理由だけでフォローしたりしているとフォローバックなどフォローを返されたりするのでそうしているうちにどんどんフォロワーが増えていったのだ。
今や俺のアニメアカウントはフォローは七千人、フォロワーは五千人へと上り詰めていた。
約七千人ものフォローをしているためにタイムラインは常に高速でたくさんのフォロワーのツイートで流れ去っていく。
アニメが好きで同じくアニメ好きの人のツイートがたくさん眺めるタイムラインにしたい、と思ってアニメクラスタを大量にフォローしていったらこんなに増えたのである。
本来ならばアニメのジャンルごとにアカウント振り分けをするということもやった方がよかったのだが使い分けが面倒で全てこのアカウントで管理しているのだ。
そして俺はアニメの実況がてらにキーボードを叩き、今見ているアニメの感想を打ち込んだ。
「やっぱり『はぴほむ』は今期日常枠として面白い。こういう緩やかな日常ものは安定するし、ホームコメディなところもあってこういう家庭に憧れる。まりんの学校生活シーンもいいけど家で過ごすシーンも女子高生の日常って感じでいい」
俺はツイッターにそう投稿した。
「はぴほむ」とは俺が今期で推している日常系ホームコメディものだ。
可愛らしい女子高生キャラの周囲で起きる日常ということで癒されるために俺は気に入っていた。
タイムラインにそのツイートが流れ、すぐに「いいね」もついた。
大抵アニメ感想をツイートすると同じくアニメクラスタから速攻でいいねをもらえることがいつもの光景だ。
たまにリプライが着くこともあるので俺はそれに返信するのも日課だ。
今日はこのツイートに対してリプライをくれたフォロワーがいた。
「『はぴほむ』いいですよね。私的にはまりんの親友のノノちゃんも好きです。彼女達の学校生活とか家での日常とか本当に憧れます」
リプライをくれたのは二カ月前にフォローさせてもらった俺と同じく高校生でオタクだという「ノリミさん」という人だ。アイコンは花模様で、性別は女性のようだがいつもこの時間帯にアニメツイートをしていて、たまに絡むことがあった。
割と俺のツイートに気の合うリプライをつけてくれる人なので特に印象に残っている。
俺はすぐにリプライに返信をかいた。
「ノノも可愛いですね。女子高生の学校生活って僕もああいうゆるやかな雰囲気なのかなあって憧れます」
俺はその「ノリミ」さんが今日はどんなツイートをしているのかが気になって、ノリミさんのホーム画面を見た。
アニメクラスタらしくアニメも好きなノリミさんはイケメン男子が数多く登場するタイプのアニメが好きだとツイートから伺えた。
中でもノリミさんの推しアニメは現在放送中の「コールドエンブレム」(通称・コルエム)という少年漫画原作のアニメということだ
大抵俺は毎シーズンの新アニメはほぼ見ているのでそれだとアニメ好きのフォロワーが見てるアニメは大体知ってるものばかりなのでどんなアニメの話題にも合わすことができてアニメのタイトルをいればその人の好みの傾向もわかって来る。
少年漫画原作だろうとラブコメだろうとバトルでも日常でもファンタジーでもSFだろうと俺はどんなアニメも見ている。
好きなジャンルに地雷はなく、いわば雑食のようにどんなものもいけるタイプだ。
せっかくこちらにリプライをくれたのだから、と俺はノリミさんのホームを見てじっくりツイートを読むことにした。
「今週のコルエムのユイロの技、かっこよかった。漫画での大ゴマ技をああやってアニメで表現してくれたスタッフさんには感謝しかない」
ノリミさんはそういったツイートを一時間ほど前に書きこんでいた。
「へー、さすがノリミさん、よく見てるなあ」
さらにノリミさんは新しい財布を買ったという画像を数分前にアップしていた。
「新しい財布、長財布にしちゃった。これからは愛用する。お守りにユイロのカード入れちゃおうっと」
その画像には黄色のチェック模様の長財布でカードを入れる部分にコールドエンブレムのユイロがきめ台詞とともにプリントされているカードを入れている画像だ。
コールドエンブレムのウエハース、いわば食玩に入っているカードだった。
俺にとっては食玩のカードなどは家でコレクションしておくもの、という認識だったのでこうして持ち歩くという発想はなかった。
確かにこれならいつでも好きなキャラをいつでも見ることができてお守りになる気がする。
「ノリミさんってどんな人なんだろうなあ。きっとアニメ好きの可愛い女子高生なんだろうな」
俺は会ったこともないフォロワーのツイートを見てそんなイメージを抱いた。
今日もこうやっていつも通りの日課である夜の時間が過ぎていく。
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