萌えは世界を救う

降木星矢

第1話 プロローグ


「嘘……だろ……?」


 古ぼけたお店。

 いくつもの本棚が並び、そこには様々な厚さの、これまた古びた本が沢山並んでいた。

 半ば寝ぼけている店主にお客さんである少女が一人、俺は店内をくまなく移動した果てにただただ呆然と背の高い本棚を見上げる。

「ここにもない……」

 ここに来るまでにも様々な本屋に行き、お目当ての物を探し回っていた。

 そしてここがこの街最後の本屋だったのだが……。

「まさか……本当に…………この世界には萌えがないのか?」




 俺の名前は谷村太一。34歳の無職だった。

 中学二年生の頃から自宅に引きこもってから約二十年間、結局俺は一度も外に出ることはなかった。

 だけど俺にはアニメやマンガ、小説があった。

 これらの娯楽の可愛い女の子――つまり萌え成分を得られるだけで俺は人生幸せに生きていられた。

 それに月の小遣いだって、日々ブログや副業などで稼いでいたし、そこまで両親には迷惑はかけてなかったと自負している――まぁ、家に金を入れることはなかったが。

 当然、これからも俺の人生娯楽に費やしていくつもりだった。


「だったのにどうしてこんなことに……」

 本棚を眺めていてもそこに漫画が出ることはない。

 つまらない現実逃避はやめて俺はこれからの現実――この世界について考えることにした。

 この世界とはつまり、俺が元いた世界とは異なる世界、つまり異世界のことだ。

 俺はどういう訳か異世界に転移されられてしまったようだ。

 勿論、こんな展開はアニメや漫画で慣れていたからそこまで取り乱すことはなかった。

 だが流石にこうして実際に異世界の現実を目の当たりにすると俺はただただ絶望するしかなかった。

「――どうしてこの世界には萌えがないだよ」

 そう、この世界には萌え文化がなかったのだ。

 神によってこの世界に飛ばされた俺は真っ先に本屋をめぐった。

 俺にとって萌えは生きる糧であり、人生そのものだ。

 当然異世界でも萌えがなければ俺は生きていける自信がない。

 だからこそすぐさま萌え文化、つまり漫画やラノベ、アニメがないか探す為に街にある本屋を全て回ったのだが……俺が求めているものはこの世界になかったのだ。

「俺は……どうやってこの世界で生きていけばいいんだ……」

 神からこの世界の魔王を倒すように言われていた。

 だが魔王を倒す以前、モンスターを倒す以前に俺はすでに瀕死寸前だった。

「萌えが……萌えがほしい……」

 萌え成分が補充出来ず俺は今にも叫び出しそうな気分だった。

「…………」

 だがここで先ほどまで居眠りしていたはずの店主がじっと俺を睨んでいることに気づいた。

 少し騒ぎすぎたな。

 このままだと通報されかねないので俺はそそくさと店を出ることにした。


「――ちょっと!なんなのよあなた達っ!」


 しかし外に出るとさっきまで店にいた少女が本を抱えながら、男二人に絡まれていたのだった。

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