1
暑さというヤツは、いったいどこからやって来るのか?
そんな話題を、旧友のサイモンとアパートの駐輪場の日陰で寝そべりながら、哲学的に語りあう。と言っても聞こえは良いが、ようするに、話の種がそれくらいしかもうなかったからだ。
「いいかい、
体とおなじように地面で横たわっていた
「なんでトラックなんだよ……」
おれは目を閉じたまま、腹這いの姿勢でつぶやく。
「まえにさあ、荷台の扉を人間が開けたときに、そこから蒸し暑い空気が……こう……ムア~って出てきたんだよね」
サイモンは気に入ったのか、眠たそうな顔でもう一度「ムア~」と言ってみせた。
今年の夏は例年に比べて異常なほど暑く、日中はとてもじゃないがアスファルトの上は歩けない。肉球が大火傷するのは確実だった。
それでも、人間という生き物は大馬鹿なのか、無慈悲にも犬の散歩を強行する。人間は靴を履いているので熱くないのかもしれないが、犬たちの肉球は無事では済まされない。彼らにも靴を与えてやるといった発想は、どうやら人間には出来ないようだ。
「それって、ただの熱気だろ? もし夏の暑さの正体がそれなら、どれだけのトラックが荷台を開けて〝ムア~〟しなきゃならないんだよ」
思わず使ってしまったその言葉を忘れようと、おれは話題を変えることにした。
「なあ、サイモン。喉が渇いたな……腹も空かないか?」
目を閉じたまま欲求を告げるおれに、旧友は
「……サイモン?」
薄目を開けば、しあわせそうな寝顔をした小太りの飼い猫が間近に映った。やれやれ、よくこの暑さで眠りにつけるものだ。
公園にでも行くか──
おれはゆっくりと体を起こす。そのまま背伸びをしてから
すると、近くの家から人間の怒鳴り声が聞こえてきた。
その声の主は、よっぽど怒っているのだろう。雷のように、それはそれは大きくあたりに響き渡っていた。気持ちよさそうに眠っていたサイモンが目を覚まし、何事かと声のほうへ顔を向ける。
「この大声はなんだい、肉三郎?」
「人間が騒いでやがるのさ。こいつは、なにやら事件のにおいがしてきたぞ」
退屈しのぎにちょうどいい。
おれたちは声を頼りに、民家をめざした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。