対峙

 かくして茶室には、4人の人間が参集することになった。木場と茉奈香、花荘院と若宮。囲炉裏を挟んで差し向かいに正座し、部屋には張り詰めた空気が漂っている。

 花荘院は初日と同じ紋付袴を着込んでいた。腕を組み、瞑目したまま微動だにしない様はまるで仏像のようだ。その隣に座った若宮は表情を強張らせたまま、落ち着かない様子でちらちらと花荘院に視線を送っている。師匠がどういう心境でいるのか、彼も計りかねているのだろう。

「今日はお時間を取っていただき、ありがとうございます」木場が頭を下げた。

「今日伺ったのは、ガマさんが逮捕された事件について、進展があったからです。花荘院さん、仰ってましたよね? 何か進展があったら知らせてほしいって」

「……いかにも」花荘院がうっすらと目を開けた。「だが、何も自宅に足労願うとまでは頼んでいなかったはずだ。君も多忙の身であろうに、何故電話を寄こさなかったのだね?」

「重要なお話ですから、電話で済ませるわけにはいかなかったんです」木場は面を上げて花荘院を見つめた。「何しろ自分は、真犯人を見つけましたから」

「ほう……それは興味深い。誰だね、その真犯人というのは?」

「それを説明する前に……事件当日の花荘院さんの行動を聞かせてもらえませんか?」

「何?」

 花荘院が眉を上げた。若宮が座布団の上でもぞもぞと尻を動かす。

「今回の事件の被害者は、13年前の誘拐事件の犯人でした」木場は言った。「花荘院さんはその事件で、娘である楓さんを失った。その後で奥さんも自殺され……当然、あなたは黒川を恨んでいたはずです。

 でも、警察はあなたを容疑者とは見なかった。何故ならあなたには、事件のあった時刻にアリバイがあったからです」

 花荘院は何も言わなかった。木場は続けた。

「黒川が殺害されたのは21時30分頃です。その時間、小屋の前で男の叫び声を聞いたという証言がありました。

 一方あなたは、21時と22時に若宮さんから姿を見られている。この家から自然公園までは車で約40分。21時直後に家を出て、車を飛ばして公園に行ったとしても、22時までに犯行を終えて帰宅したと考えるのは無理があります。公園の入口から小屋に行くまでにも、10分から15分はかかりますからね。だから警察はあなたを容疑者から外した」

「左様。だが、何故今それを問題にする?」花荘院が厳しい視線を木場に向けた。「君は私に、真犯人について説明すると言った。私の行動を問い質すことに何の意味がある?」

「もちろん意味はあります」

 木場はまっすぐに花荘院の目を見返した。緊張が喉からせり上がってきたが、急いでそれを飲み下した。

「何故ならあなたのアリバイは、真っ赤な偽物だったんですからね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る