第113話【収納魔法と祝福者の情報】

「これから話す事はこの場に居る人以外には出来れば話さないで欲しいのですが、僕は『女神の祝福を受けし者』とアーロンド伯爵様に認定されている世間的には『治癒士』の職業で認知されているナオキと言います。

 それで今お見せした収納魔法も僕の能力のひとつになります」


 僕はこれから約1ヶ月も一緒に旅をするメンバーにそう言った事を隠して行くのは難しいと考えて他言無用の条件で情報の開示に踏み切った。


 今回、商隊に同行させて貰う理由や条件等もガリウムの許可を得て護衛の者達にも説明をして納得して貰った。


「しかし、あなたが『女神の祝福者』だったとはね」


「あまり驚かれないんですね」


 マリルのあまり変わらない態度に僕は逆に興味が出てきて聞いてみた。


「ああ、それは王都には多くはないけど幾人かは『神の祝福を授かりし者』が実際にいるからよ」


「へー、そうなんですね。

 どんな人が会ってみたいですね」


 僕が興味本位でそう言うと、マリルは少しばかり表情を曇らせて声のトーンを落として話してくれた。


「私も全ての人を知ってる訳じゃないんだけど、私の知っている人は『占い師』を生業にしていて確かに良く当たると評判だけど貴族の庇護下に身を置いて法外な報酬を要求してきたり、気に入った女性を手に入れるために裏であくどい事をしているとの噂が尽きないの。

 あなたも可愛いから気をつけてね」


 マリルはリリスを見るとそう忠告した。


「あはは、私くらいの娘なんて王都ならいくらでも居るでしょうから大丈夫てすよ。

 それにこれでも人妻ですからナンパもどきは全てお断りしてますから」


 リリスはマリルの話にパタパタと手を振って答える。


「とりあえず、その占い師の名前だけ教えておくわ」


 マリルはそう言って一枚の紙を見せてくれた。


「えーと、なになに?『神の祝福を授かりし未来を見通す目を持つ男、ゴッツァイ。仕事の未来から運命の人探しまで何でも占います』ですって。

 何コレ? この変な広告がその占い師なの?」


「そうです。今、王都で凄い人気なんですから王都向こうに行ったら彼の悪口は言わない方が良いですよ。

 彼は貴族の庇護下でもあるので名誉棄損言いがかりを付けて役人に連れて行かれる場合もありますからね」


「うへぇ。王都ではそんな祝福者が居るのか……。

 何だか急に行きたく無くなって来たぞ」


 自分と同じく神様から与えられた能力を私利私欲に使っているであろう神の祝福者が居ることに気分が下がっていた僕にリリスが何でもないように話しかけてきた。


「なに言ってるのよ?

 ナオキだって私利私欲に走っているじゃないのよ」


「えっ?」


「良く考えてみてよ。

 ナオキが自分の生活の糧を稼ぐついでに自分の人を癒す欲求を満たす為に人を治療している訳でしょ?

 これって自分の利益と自分の欲求を満たすために能力を使っていることだよね。

 まあ、ナオキは人を騙したり貧しい人から金品を巻き上げたりとかはしないから全く同じとは言わないけどさ」


「いや、それは私利私欲と言うには無理があるだろ」


「えへへ、やっぱり?」


 リリスはそう言いながら意地悪く笑う。


「まあ、せっかく情報を貰ったのだから気をつけるに越した事はないよな。

 会ってみたい気もするけど余計なトラブルは避けたほうが無難だよね」


「そうね。でも、ナオキだってこれから王都で目立つ活動をする事になるんだからそのうち嫌でも会う事になるんじゃないの?」


「確かにそうかもしれないな。

 ところでマリルさんはこの占い師に会った事があるのですか?」


「私ですか?

 いえ、直接会った事はありませんよ。

 彼の占いは人気が高くていつも予約で一杯らしく、しかも占い料が高いので私なんかが占って貰える筈がないですよ」


 マリルは手を目の前でブンブンと振りながら無理だと言う。


「そうなんですね。

 あ、せっかくなんで温かい紅茶でもいかがですか?

 もう少しお話を聞かせて貰えたら嬉しいのですが……」


 僕はマリルに紅茶を淹れたカップを手渡して、これから王都までの道程を尋ねていった。


「なるほど。

 明日の朝から出発して日が落ちる前にザザールの町に到着する予定ですね。

 そこで1泊して食料と馬の飼い葉を調達してから領境を越えて次の拠点へ向かうのですね」


 僕はマリルの話を聞きながら各町や村でも何か出来ないかと考えていた。


「あの……。何か問題でもあるのですか?」


 僕が急に黙って考え込んでしまったためにマリルが心配そうにそう聞いてきた。


「あ、いつもの事なんで気にしないであげてください。

 彼の職業病みたいなもので怪我や病気で困っている人がいると首を突っ込みたくなるんです。

 あ、ただ女性限定ですけど……」


「女性限定……ですか?

 それはまた、何故ですか? 単に女好きって訳ではないですよね?」


 マリルは少しばかり引き気味に尋ねて来たので考え事をしている僕に代わってリリスが丁寧に説明をしてくれた。


「なるほど。

 女神様の祝福条件なのですか、それならば仕方ないですね。

 あ、無いとは思いますけどこの旅の途中で私が倒れたら治療をお願いしますね。

 まあ、あり得ないでしょうけど……。

 では、私は護衛のメンバーと夜の警備につきますのでこれで失礼しますね。

 紅茶ごちそうさまでした」


 マリルは社交辞令のようにそう言って笑いながら頭を下げて護衛仲間の元へ向かった。

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