第108話【旅立ち準備の挨拶回り②】

「昨日の訪問治療で薬師ギルドからの依頼は全て終わりましたのでこの町における僕の役目は終わったと思います。

 ですので、数日中に準備をして次の町に行ってみたいと思います。

 領主様との約束で町を出る時には斡旋ギルドに報告をするようになってますのでこうして報告をしたいと思います」


「そう……。薬師ギルドとの兼ね合いもあるでしょうから難しいのは分かるけど、あなたと同等の治療を出来るひとは居ないから町を離れるのは本当に残念だわ」


 アーリーはサラサラと何かの書類を書きながら僕の話を聞いていた。


「それで、次はどこの町を目指すのかしら?」


「出来るだけ多くの人が集まる町を希望するので王都に行ってみたいと思いますね」


「はあ……。

 やっぱりそうなのね。でも、王都に向かうならばアーロンド伯爵様の領地から出る事になるわ。

 そうなると伯爵領内ならば受ける事の出来た特典が全て無くなりただの無名な旅人としての扱いになる事を受け入れなければいけないのだけど本当に分かってる?」


「まあ、そのくらいは当然かと思ってますから大丈夫ですよ」


 僕はアーリーの言葉を当然とばかりに受け入れる。


「んー……。

 どんなに引き止めても無駄なようね。まあ確かに王都ならばあなたの能力を必要としてくれる人達は沢山いるでしょう。

 でも、ひとつ言わせてね。王都にはこの領地の権力者とは比較にならないほどの力を持った人達がいるわ。

 私もどちらかと言うと使える力は何としてでも利用したいと思ってるけどからめ手はともかく本当に権力に傘を着て無理矢理まではしないわ。

 そんなやり方で仕事させても結果はついてこないと考えているからね」


「その割には私とナオキを引き離したり、娘を助手にしたりと結構権力を使ったやり方をしていた気もしますけど?」


 リリスの言葉にアーリーは笑いながら答えた。


「だから『からめ手』は使うって言ったでしょ?

 それに、娘を彼に差し向けたのは本人の意思を尊重したからに過ぎないわよ。

 まさか、あれだけアピールしていた娘の気持ちに気が付かないなんてある訳ないわよね?」


 アーリーは今度は僕の方を向いてそう言った。


「ナナリーさんからは治療を済ませた時にそういった内容の言葉を頂きましたが、その当時から僕にはリリスという大切なパートナーが居ましたので気持ちは受けられないとお断りさせて貰いました。

 こちらに来てからも僕を慕ってくれているのは分かっていましたがそう言った言葉はありませんでしたよ」


 アーリーはため息をついて言った。


「まあ、彼女が横に居るからそう言うしかないでしょうけどあの子はまだあなたの事を好いているわよ」


「そうかもしれませんが一度お断りさせて頂いてますし、今日彼女リリスとは婚姻の儀式を済ませて来ましたので正式に婚姻関係になりました。

 ですので、申し訳ありませんがその件はこれで終わりたいと思います」


 アーリーがその言葉に隣にいたリリスの方を見ると彼女がこくんと頷いたので少しばかり驚いた表情をしたが直ぐに真顔になり「そう、なら仕方ないわね」とまたため息をついた。


「それで? 私に何かやって欲しいものでもあるのかしら?

 あなたには借りがあるから私に出来る事なら聞いてあげるわよ」


「ありがとうございます。

 では王都へ向かう馬車と護衛の斡旋をお願いしたいです。

 もちろん適正価格の報酬はこちらが負担しますので……」


「王都までの馬車と護衛ね……。

 この町からだと直接向かっても1ヶ月くらいかかるわよ。

 当然お金もかかるけど、まず引き受けてくれる馬車管理御者と護衛を探さないといけないわよ」


「結構遠いのですね。

 うーん、どうしようかな……」


 僕が悩んでいると隣からリリスがアーリーに思いついた事を聞いた。


「この町から王都へと向かう商人や商隊は居ないのですか?

 もし、居るならばその馬車に同行させて貰えればいいかと思うのですけど……」


「……確かにそれならば単独で馬車と護衛を準備するに比べれば格段に安く済むと言いたいけれどかなりの遠方に運ぶからには出来るだけ多くの荷物を積んで行きたいでしょうし、護衛もそれなりの人数でしょうからあと二人を乗せる事に同意するか分からないわよ。

 まさか同行するだけで歩いて行く訳にもいかないでしょうしね」


 アーリーが言うには王都行きの商隊はいても向こうに相当のメリットが無ければ受けてくれないのではないかとの事だった。


「うーん。まずは金銭での交渉をして、折り合いがつかなければ……あまり見せたくは無いですけどで交渉するしかないかな?」


 僕はリリスの方を向いてそう問いかけた。


「ああ、ですか……。

 カルカルでは普通に使ってましたけど確かにあまり多くの人に宣伝してまわると面倒に巻き込まれそうですけど……。

 商隊だとほぼ男性で編成されるでしょうからナオキの治癒魔法はあまり交渉材料にならないでしょうし、を他言無用で交渉の材料にするしかないでしょうね」


 僕とリリスがそう話し合っているとアーリーが不思議そうな顔で「何か交渉の切り札でも持ってるの?」と聞いてきた。


「ああ、アーリー様には話した事はありませんでしたが僕の能力スキルは治癒魔法だけでは無いんです。

 もっとも、こっちの能力はそういった事を想定している訳ではないんですけど商隊との交渉ならばかなり有効かと思いますよ」


 核心を説明しない僕の説明に頭を傾げながらアーリーは「何だかよく分からないけど詳しく言えない事なのね。でも何とか交渉出来るのならば商隊については探してみるわね」と言ってくれた。

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