第87話【リノの説得と思わぬ来客】
次の日、宿で朝食を食べているとナナリーが訪ねてきた。
「おはようございます。
ナオキ様の今日の予定は空いているでしょうか?」
ナナリーは4人掛けテーブルの向かい合わせに座っていた僕達の横の空いている席に座ると僕の予定を聞きながら自分の朝食も注文をした。
「リリス。
今日は急ぎの予定は入って無かったよな」
朝食を食べながら僕はリリスに予定の確認をすると彼女は側に置いていた手帳の確認をして「特に急ぎの約束は無いですね」と答えた。
「お待たせしました。
今日の朝食セットになります」
僕達が話をしていると給仕の女性がナナリーの朝食を運んできた。
「ありがとうございます」
ナナリーは女性にお礼を言って食事に手を付けた。
「昨日お話をしたリノさんの事なんですけど、この後で会う約束をしていますのでナオキ様の予定が良ければ彼女に会って貰いたいのです」
「今日は他に約束をしてないみたいだから大丈夫だよ。
まず、会って話をしてから治療を受けてもらうかを決めたらいい。
リリス、今回も彼女の心のケアを頼むよ」
「ええ、分かっているわ。
こう言うときは同性同士の方が話しやすいですからね」
「よろしくお願いします。リリスさん」
全員が朝食を済ませた後にナナリーの案内でリノとの待ちあわせ場所へ向かった。
「――この家です。
ちょっとお待ちくださいね声をかけて参りますので……」
ナナリーはそう言うとドアを開けて勝手に入って行った。
「仲の良い友達なんだろうね。
同い年と言ってたから幼なじみか学友といった所なのかな。
家もかなり立派だし、意外とお金持ちの娘さんなのかな?」
僕がリリスと話をしているとナナリーが戻って来て「どうぞこちらにお願いします」と僕達を迎え入れてくれた。
家の内装もシンプルだけど清潔感の漂う洗練されたものでありながら所々には高価であろう装飾品が飾られていた。
「立派な家だね。
リノさんってもしかして貴族のお嬢さんだったりする?」
僕は廊下を歩きながらナナリーにそれとなく尋ねてみた。
「いいえ、リノの実家は小規模の商店を営んでいるごく普通の
私とは中等学校が一緒でよく遊ぶ友達でした」
そこまで言ったナナリーは、ふと僕の疑問に思っている事に気がついて教えてくれた。
「この家は私の住んでる家ですので彼女の家ではありませんよ」
その説明でやっと納得出来た僕は「そうだったのか」と呟いた。
「この部屋です。リノ、開けてもいい?」
ナナリーがある部屋の前で止まり中に居る友達に声をかけた。
「は……はい。どうぞ」
――かちゃり。
ゆっくりとドアを開けて先に入るナナリーの後ろから僕達も続いて部屋に入るとそこには化粧メイクを完璧にしたツインテールの女の子がソファに座っていた。
「リノです。
よろしくお願いします」
女の子はソファから立ち上がりお辞儀をしながら挨拶をする。
「こちらこそ、よろしく。
じゃあリリス、聞き取りと同意書の方をよろしく頼むよ。
ナナリーさん、聞き取りが終わるまで僕が待機出来る部屋はありますか?」
僕の言葉にリノは「あ、お話は一緒でかまいませんよ」と言ってくれた。
「ならばお言葉に甘えて、同席させて貰いますが、基本的に質問等はリリスが対応しますので僕の事は気にしないでください」
僕はそう断るとソファの端に腰を下ろした。
「では、いくつかお聞きしますので答えられる範囲で良いのでお願いします。
まず、ソバカスはいつ頃から目立つようになりましたか?」
ナナリーからの話から質問を準備しておいたリリスは次々と必要な内容を聞き取りしていった。
「では最後に、あなたは自らのコンプレックスとしてあげられているソバカスを消したいですか?」
「はい。本当に出来るならばそうありたいです」
「では、こちらの治療方法に関する誓約書を確認の上、了承されるならば治療を行いたいと思います」
リノは渡された書類を読んで頷くと「分かりました。それで治るのならば治療を受けたいと思います」と答えた。
「――では、今されている化粧を綺麗に洗い流して貰えますか?」
治療のためにはソバカスの状態を確認しておかなければならないため、覆い隠している化粧は落として貰わなければならない。
実のところこれが一番拒否される可能性が高かった。
「やっぱり化粧を落とさないと駄目ですか?
このまま治療をしてもらって治った後で一人で化粧を落とすとかは無理なんでしょうか?」
予想どおりリノは化粧を落とす事に臆病になっていて、人の前で素顔を見せる事が出来なくなっていた。
(やっぱりそうか、でもそれじゃあ駄目なんだよな。
なんとか説得しないといけないけど僕が言っても効果は薄いだろうしな……)
僕がどうしたものかと考えていると入口側の廊下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「だから今じゃ無くて良いんです。
今度、お会いした時に話せば良いので……」
「だから、何で今では駄目なのよ?
あの娘はさっき帰って来て、今はお友達とお喋りをしている筈だからちょっと呼び出せばいいだけじゃないの」
「いや、ですからまだ心の準備が……」
聞き覚えのある声はだんだんと僕達のいる部屋に近づいてきて、ドアの前で声と足音が止まった。
僕達みんながドアに注目している中、ドアがノックされ「ナナリー、開けるわよ」とこちらの返事を待たずにドアが開けられた。
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