第74話【斡旋ギルドからの手紙と温泉での出来事】

 宿屋に帰った僕達に宿の受付がメモを渡してきた。


「斡旋ギルドからです」


「ありがとうございます。

 伝言はありましたか?」


「いえ、手紙を渡して欲しいとだけ言われて帰りましたよ」


 僕は手紙を受け取りお礼を言うとリリスと供に部屋に帰った。


「おそらく、手紙の配達だけ請け負った関係者か配達員でしょう。

 まあ、伝言なんて不確かなものより手紙を読めば済む事だからね」


 僕はそう言って手紙の封を切った。


『治癒士ナオキ様。

 薬師ギルド及び町長との面会の日取りが決まりましたのでご連絡します。

 明日の昼の鐘が鳴る頃に斡旋ギルドまでお越しください。

 その際には領主様の免状をお持ちください。

 斡旋ギルド・ギルドマスター・アーリー』


「明日か……。意外と早く面会の予定がとれたんだな。

 アーリーさんが手を回したんだろうけど皆女性だし3人は仲が良いんだろうね」


「そうね、でも仲が良いだけならいいけれど、3人で結託されて不利な条件を飲まされないようにしないと自分が苦しむだけよ」


 リリスが僕の甘い考えに釘を刺してくる。


「となると、宿泊先を決めてしまったのは早計だったかもしれないな。

 向こうの条件が悪ければ断ってから別の町に行っても構わないんだけど既に2ヶ月の予約をいれたからキャンセルしても何割かは請求されると思うし……って、あっ別にリリスが悪いと言ってる訳じゃないからね。

 長期宿泊割引が効くのを聞いて僕も同意したんだから」


「そっ、そうならないようにしっかりと意見交換、交渉をしないといけないわね」


「そうだね。頑張るよ」


 一抹の不安を抱えながらも僕達は明日の面会についての打ち合わせを済ませてから気分を変えるために温泉へ向かった。


 天然温泉『タダノユ』は無色透明の源泉で強い硫黄の匂いも無く、硫黄酔いをする心配が無いと評判の温泉だった。


 毎年、寒い季節になると現役を引退した裕福なお年寄りが湯治をするために訪れるそうだ。


「今はシーズンオフだそうで、そういった人達をあまり見かけない代わりに若い人達が多く温泉を楽しみに訪れるようだね」


 たっぷりの透明なお湯に浸かりながら、たまたまとなりに入ってきた青年男性と世間話をする事になった僕はこの町の薬師について聞いてみた。


「少し聞いてみたいのですが、ここ町の薬師さん達ってどのくらいのレベルなんですか?」


「ん? 君は領都から来たと言ってたが薬師だったのかい?

 そうだな、この町の薬師ギルドのマスターが女性なのは聞いてるかな?」


「はい、伺っています。何でも腕利きの薬師だそうで……」


「そうだな。腕も確かだが顔もいい、さらに身体も……」


「いえいえ、そういった情報は必要ないですから評判だけ聞かせて頂けたら十分ですので……」


 話がそれそうになったので慌てて軌道修正をする。


「ああ、すまない。

 彼女はよくやってくれてると思うよ。

 だが、ギルドの運営上で個人経営の薬師達と意見が合わない事があるようで派閥の問題も抱えているそうだね」


「お詳しいんですね。

 もしかしてあなたは薬師さんなのですか?」


「ははは、まあこんな話をすればそうなるよな。

 ああ、私はこの町で薬師として活動しているゼアルだ。

 ちなみに現ギルマスの派閥に属している。

 それで、君は領都からバグーダに来た薬師なんだろ?

 悪い事は言わないから現ギルマスの派閥に所属していた方が間違いないと思うよ」


 僕が話しかけていたのは偶然にも薬師ギルドの薬師だった。


(……偶然だよな? まさか現ギルマスから刺客が差し向けられていたとか無いだろうな?)


 僕は少しばかり疑心暗鬼に陥りそうになったが、ひとまずその考えを振り払い笑顔で男性に答えた。


「ああ、すみません、僕は薬師では無いんです。

 なので、折角お誘いを頂いたのですが薬師ギルドに所属する事はありません」


「薬師じゃない?

 そうでしたか、薬師ギルドの話をされて領都から来たと言われてたものですからてっきり薬師の方だと思い込んでたよ。

 ところで、薬師で無いならなぜ薬師ギルドの評判が気になるのだい?

 誰か病気の家族が居るなら私が調薬してあげてもいいが……」


「あ、いえいえ大丈夫です。

 実は明日、町長さんと薬師ギルドのマスターさんとの面会があるのでちょっと興味があって町の人に聞いてみたかっただけなんです。

 まさか薬師の方とは思わなかったですけど気を悪くされないでくださいね」


 僕は正直に理由を話して男性に断っておいた。


「へー、町長とギルマスの面会かぁ。

 少しだけ興味があるけどあんた何者だい?」


 ゼアルは今度は僕の職業について興味を持ったらしい。


 薬師の彼とはまた、何処かで会う可能性を考えて職業について正直に話す事にした。


「僕は領都サナールで治癒士をしていたんです。

 あ、治癒士と言うのは魔法を使う魔術士の治癒に特化したものだと思ってくれたら分かりやすいと思うよ。

 まあ、患者さんを治療する点では薬師さんと同じだけど薬師さんは調薬で、僕は魔法で治療する違いはありますけどね」


 僕はそう答えると「いろいろとありがとうございました」と話を締め括って温泉から出た。

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