第64話【オクリ村での宿泊】
次の日の馬車の中では僕とリリスはこれからの行動について意見を出し合っていた。
「バグーダに着いたらやっぱりまずは町長に会いにいって領主様からの許可証を見せてから説明して……」
僕はバグーダではサナールのような大きな混乱のないように気をつけながら活動をしたいと考えていた。
「最終的には斡旋ギルドにも行かないといけないのだけど、ギルマスにも会わないといけないわよね?」
「一応、アルフさんからの手紙もあるし会わない訳にはいかないだろう」
そんな会話をしていると御者の男性が「もう少しで中間地点のオクリ村に着きます。
今日はその村で一泊しますので宿をとられる方は次の日の出発までに広場に集合してください」とアナウンスをした。
村で過ごすのに野営をするのは馬車の護衛と御者くらいで乗客は全員村の宿に泊まる事になった。
「あー。3日ぶりにベッドで寝れるのね。
長距離の移動では仕方ないけれどやっぱり野営は疲れが取れないわよね」
コリアと連れの女性が話しているのを聞きながらリリスにそっと
「体調はどうだい?
どこか痛むようなら治癒してあげるからすぐに言うように」
「そうね。今日は宿をとるからお願いしようかしら。
いつもの馬車よりクッションはいいのでしょうけどやっぱり長く乗ってるとお尻が痛くなるのよね」
リリスはそう言いながらお尻を
それからまもなく馬車はオクリ村へと到着し、広場で一時解散となった。
「さて、まずは宿を確保してからどうするか決めるとしようか」
僕はそう言うとリリスと供に宿屋へ向かった。
――からからん。
宿屋のドア鐘の音が部屋に響いた。
いらっしゃいましぇ、ナガレンガ亭へようこそでしゅ。
本日はお食事でしゅか?
それともお泊りでしゅか?
宿屋の看板娘であろう若い……いや5〜6歳くらいの若すぎる女の子が受付業務を担当していた。
「きゃあ!可愛い!!」
僕達と一緒に馬車で来ていたコリアがその女の子をみつけると『タタタ』と走って『ガバッ』と抱きしめていた。
「あわわ、何するのでしゅか?」
コリアに抱きしめられて身動きが出来なくなった女の子は手足をバタつかせながら必死に逃れようとする。
「ちょっと、離してあげないとその子、苦しんでるみたいよ?」
リリスが指摘すると「あっ!ごめんなさい」と言ってコリアが少女を離した。
「一体なにをするのでしゅか!
お客様じゃ無いなら帰ってくだしゃいよ!」
少女は頬を膨らませながらコリアに怒る。
「ごめんね。可愛かったんでつい……」
「つい……。じゃないでしゅよ。息が出来なくて死ぬかと思ったじゃないでしゅか!」
少女は文句を言ったがコリアが素直に謝ったので落ち着きを取り戻し再度案内を始めた。
いらっしゃいましぇ、ナガレンガ亭へようこそでしゅ。
本日はお食事でしゅか?
それともお泊りでしゅか?
「泊りです。食事もお願いします」
今度はまともに答えたコリアに少女は人数の確認と金額を伝え、部屋の鍵を渡してきた。
コリアと連れの女性はふたりで一部屋、老婦人も同様に一部屋、親子連れも一部屋と部屋割を決めていく。
「そこのふたりは夫婦でしゅか?
であれば一部屋でお願いしましゅね」
少女の言葉に「別々に」と言おうとした僕をリリスが間に入り「はい」と鍵を受け取った。
「おい?」
「いいから」
僕の言葉をリリスが手で制してきたのでその場はおとなしく従った。
「一体どう言うつもりだ?」
部屋に案内されてお互いにベッドに座り僕はリリスに真意を聞いた。
「別に問題はないと思うけど。
同じ部屋でもベッドは別々だし、診療所でも部屋は別れてたけどいつでも行き来出来たじゃない。
それに私達って恋人関係なのよね?
逆に同室くらいであたふたする方がおかしいんじゃないの?」
「そ、それは……」
リリスの指摘に返す言葉もなく、気恥ずかしさに彼女を直視できずにいる僕にリリスは頬を膨らませて言った。
「じゃあいつもの治療をして貰おうかな。
馬車の旅でお尻は痛いし、野営で寝不足気味だし……」
「嘘言え、しっかり寝てたじゃないか」
僕の突っ込みに「あれ?そうだっけ」と
「あー、痛みも疲れも全部無くなっていくのが分かるわ。
あなたの治癒魔法をこんな使い方をするのって私だけだろうけど凄く贅沢な事よね」
リリスはそう呟きながら(まあ、毎回胸は触られるけれど、恋人同士なら良いよね)としながらナオキに身体を預けて目を閉じた。
「――さてと、夕食までまだ時間があるから僕は村長さんに挨拶にいこうと思うけどリリスはどうする?
もう少し休みたいなら一人で行ってくるけど」
僕の言葉にリリスは「当然行くわよ。ナオキだけじゃ心配だしね」と言いながら出かける準備をした。
「村長さんに会いたいのだけど、何処に行けば会えるかな?」
受付にいた少女にリリスが話しかける。
「村長でしゅか?
ならば呼んできてあげましゅよ。
お父しゃま!お客様が呼んでましゅよ!」
「「え?」」
その意外な言葉に僕とリリスは同時に驚いていた。
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