第47話【彼女の夢をもう一度】
結局、その日はあの後の全ての予定をキャンセルして宿に戻っていた。
「本当にすまなかった!」
僕はリリスの部屋でベッドに座って髪をイジっている彼女に対して土下座をしていた。
「僕が道を迷わずにまっすぐたどり着いていればあんなクズどもにたちの悪いナンパモドキをされずに済んだんだ。
本当にすまない!」
「もういいよ。
別に今回の件は全部ナオキが悪いって訳じゃないんだし……。
でも残念だったな、せっかくお気に入りのワンピで気合いを入れてデートに向かったら変な奴に絡まれるし、転んで服は破れるし……」
転んでできた膝の傷は治癒魔法ですっかり治っていたがリリスは心底残念そうに髪をイジるのを辞めない。
おそらく僕の言葉を期待して待っているのだろう。
だったら僕はその期待に応えなければならない。
「リリス。明日もう一度デートをやり直さないか?
但し、待ちあわせで不安になるのは嫌だから宿から一緒に出かけよう」
その言葉を待っていたかのように暗かった彼女の表情がパッと明るく輝いた。
「本当!? 絶対に約束よ!」
「ああ、最高に楽しかったと思える一日にしよう」
僕は満面の笑みでベッドに寝転んだリリスを見てホッとした。
* * *
――次の日の朝。いつもよりもかなり早い時間に起こされた僕はリリスのコーディネートに合わせた服を来て朝食もそこそこに二人で宿を出た。
「おいおい、こんなに早くからだとどこも開いてないんじゃないのか?」
少し照れながらもしっかりと手を繋いだままリリスは最初の目的地へと向かう。
宿から歩いて30分程で小高い丘の公園に僕達はたどり着いた。
「風が気持ちいいわね」
まだ朝日が出て間もない時間だったのもあり人は誰も居らず僕達ふたりだけで独占する最高の贅沢だった。
「ねえ。キスしてみない?」
視界に広がる町並みを見ていたリリスが突然僕の方に振り返るとそう言って笑った。
「本当はね。この場所は昨日のデートの最後に来るつもりだったんだ。
そして、夕日を見ながらナオキにキスをねだるつもりだったんだけど……。
あんな事があって、ナオキが助けに来てくれた事が本当に嬉しくて……。
ああ、私は本当にこの人が好きなんだなと再認識させられて……」
リリスの頬がほんのり赤く染まり、目を潤ませながら笑う彼女がとてつもなく愛おしく感じた僕はそっとリリスを引き寄せて優しく抱きしめた。
「どんな怪我をしようが、どんな病気になろうが、たとえ死んだとしても必ず君を治してみせる。
だから僕の前から居なくならないでくれ」
雰囲気に流された僕はだれが聞いてもプロポーズの言葉にしか聞こえないセリフを吐いていた。
「それってプロポーズ?」
僕の腕の中でリリスが『してやったり』といった顔で僕を見上げていた。
「いや、違う……いやいや、違わないんだが……」
激しい動揺でもはや何を言っているのか分からなくなっていた僕にフッと腕から抜け出したリリスが僕の頬にキスをした。
「約束だもんね。今はこれで勘弁してあげるわ」
僕はキスをされた頬を手で触りながら無邪気に笑うリリスを見て微笑んだ。
「そろそろ次に行く?」
時間の経過と共に人の数も増えて来たのでリリスは次の目的地へと僕を誘った。
「この服屋がカルカルの町で一番人気のあるお店なのよ。
特に若い女の子に人気で受付嬢をしていた頃は同僚の皆とよく買い物に来ていたのよ」
――りんりん。
ドアを開けてお店に入る。
一応、男性向きの服も置いてあるが大半はリリスの言うように若い女性をターゲットにしたデザインの服が占めていた。
「せっかくだからリリスに一着プレゼントをするよ。
どれでもいいから好きな服を選んでおいで。
そして、気に入った服があったならそのまま着てデートの続きをするといい」
「本当に!?
このお店の服はデザインも良いけど値段もするよ?」
「まあ、何とかなるさ。
お金は無くなればまた稼げばいいからね。
だから、向こうに戻ったらしっかりと仕事を頑張ろう」
僕の言葉にクスッとわらったリリスは「じゃあ少しだけ待っててね」と言い残して服を探しに行った。
「――これなんてどうかな?」
10分後、リリスは僕を試着室の前に呼び寄せて自らがコーディネートした服を見せてくれた。
「良いじゃないか。
リリスの可愛いさが一段と増した気がするよ」
「えへへ。本当? 嬉しいな」
リリスは試着室の中でくるりくるりと回って見せてくれ、笑顔で喜んだ。
「服、買ってくれてありがとう。
そろそろお腹も空いたし人気のカフェに行ってみましょう」
リリスのおすすめカフェは多くの人で賑わっていた。
「えー、30分待ちだって。ちょっと出遅れたかなぁ。
まあ、でもこうやって一緒に順番を待つのも幸せだと思えるわよね」
リリスが笑えば僕も幸せな気持ちになる。
そう思える一日だった。
「あのカフェ、料理も美味しかったけどやっぱりデザートが最高に良かったわね。
美味しいだけでなく、見た目も女子が喜びそうな盛り付けだったし、人気も出るはずよね。
サナールにもお店を出してくれないかな」
カフェを出た後は、夕方までいろんなお店のウインドウショッピングをしてまわった。
やはりリリスも若い女の子らしく、可愛いものや奇麗なものを見るのが好きで僕に腕を絡ませながらあれこれと話しかけてきた。
「楽しいね。こんなに笑った日は本当に久しぶりだと思うわ。
今日は付き合ってくれてありがとう。
これからも宜しくね」
「こちらこそ、まともにエスコートも出来なくて悪いと思いながらもリリスに甘えてしまったけど、本当に楽しかったよ。
また、明日から一緒に頑張ろうな」
そう言いながら手を繋いて宿へと帰っていった。
その日はふたりにとってお互いが大切な人と認識しあった特別な日となった。
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