第46話【許されざる者の運命】
「リリス!!
貴様ら一体彼女に何をした!?」
そこには憤怒の表情を隠しもせずに男達に立ちはだかるナオキがいた。
「か、彼女は気分が悪くなったようで気を失って倒れたので休ませられる所へ運ぼうとしていただけですが?」
男達は当初の打ち合わせどおりに不審がられた時に答える回答を言う。
「彼女は僕の大切な人だ。
君たちの言っている事が本当ならば僕は君たちにお礼を言わなくてはならない。
だが、もし君たちの言っていることが真っ赤な嘘だったら……」
僕はリリスの膝から血が滲んでいるのを見て男達に言った。
「タダでは帰さない」
僕は不確定な情報で決めつけは良くないと憤怒を押さえつけて出来るだけ丁寧に言った。
「まずは彼女をこちらに渡してください」
その言葉に男達はニヤニヤしながら言った。
「あんたがこの人の知り合いかどうかはあんたが勝手に言ってるだけの事だ。
そんな奴に気を失っている彼女を渡す訳にはいかないな。
気を失っているのを良いことに何をするか分からないからな」
こともあろうか自分達こそが正義とばかりにナオキの要求を拒否し、リリスを渡そうとしない。
「ならば警備を呼べよ。
お前達の言っている事が正しいのならば構わないだろ?」
「その必要はねぇよ。
こっちも証拠はないがあんたも証明出来る材料は無いんだ。
だったら先に介抱していた俺達の方が彼女を連れて行く権利がある」
男達は無茶な理論を強気で押し通そうとする。
我慢の限界が来ていた僕は本気で男達を叩きのめそうかと考えたがリリスが向こうに居る限り不用意に彼女に被害が行く事を恐れた僕は仕方なくひと芝居をうつ事にした。
「誰か警備を呼んでください!
この男達が女の子を拉致しようとしているんです。
誰か助けてください!!」
僕が大声で叫ぶと男達は焦って怒鳴りちらしてきた。
「な、何を証拠にそんなデタラメを!こんな奴の言うことなんざ聞く必要はねぇぞ!」
「そうだそうだ!証拠を出してみろ!」
お互いが大声で叫びだすと遠くから二人の警備員らしき男達が走ってきた。
「こらー!お前達、何を騒いでるんだ!!」
どうやら親切な誰かが通報してくれたらしい。
「とりあえず双方の主張を聞こうじゃないか」
そこに来たのはカルカルの警備隊の隊長とその部下だったらしくその場を取り仕切ってくれた。
「ふむ、なるほど。
双方とも主張が対立しているという訳か、となると気を失っている彼女の証言が重要となるが話せる状態ではないな。
仕方ない、お前達は倒れた彼女を助けようとしていただけとの主張を認めよう。
そして、君が彼女の知り合いである事実は証明出来ないので詰め所にて彼女が気がついたら確認させてもらうとしよう。
双方それで良いか?」
「なんか俺達が悪者みたいな空気が気に入らねぇがまあしかたねぇか……。
こっちはそれでいいぜ」
男達はそう言って立ち去ろうとする。
「ちょっと待て!
お前達をまだ帰す訳にはいかない」
それを僕が静止する。
「彼女の証言があればいいんだろ?」
「確かにそうだが彼女は気を失ってるから証言もなにもないだろう?」
男達は鼻で笑う。
「僕は治癒士だ。
今から彼女の怪我を治療するからそこで首を洗って待ってろ」
僕はそう言うとリリスに治癒魔法をかけた。
「
僕がリリスの胸に手を添えるのを見た警備隊隊長は驚き僕を彼女から引き離そうとしたがそれを僕は反対の手で制して治療を終わらせた。
「う、うーん……」
軽いうめき声をあげてリリスが意識を取り戻し目の前に僕の顔がある事に気がつくと僕に抱きついて来た。
「ナオキ!ナオキ!!」
安心感から泣きじゃくるリリスの頭を優しく撫でながら僕は彼女に聞いた。
「この男達は君に何をした?」
彼女の表情と行動から僕は確信をしていたがあえて彼女の口から真実を話して貰った。
リリスの口からは男達の話が真っ赤な嘘である事を裏付ける内容が次々と語られた。
「う、嘘だ!その女の言ってる事は全て嘘だ!
お前!俺達を
その口をとめろ!」
憤怒した男はリリスの口を塞ごうと隠し持っていたナイフをギラつかせて向かってきた。
「させるか!」
僕はナイフがリリスに届く前に男の腕を掴み膝蹴りをした。
「ぐわぁ!」
痛みにナイフを落とした男の襟首を掴むと僕は柔道技の絞め技で男の意識を刈りとった。
「なっ なにしやがる!」
もうひとりの男はやられた仲間を見て隠し持っていたナイフを取り出し僕に向かってきた。
「死ねぇ!」
だがそのナイフが僕に届くことは無かった。
ボキッ!
「ぎゃあ!!」
鈍く骨の折れる音が響いたかと思うと男が情けない悲鳴をあげた。
そこには、腕を折られてのたうつ男の姿と警棒を振り抜いた格好の警備隊隊長の姿があった。
* * *
「――疑ってすまなかったな」
事の処理を済ませた警備隊隊長は僕達に謝った。
暴行を働いた男達はあの後、すぐに警備隊が詰所に連れていった。
他にも被害届が出ていないか余罪を厳しく追求するそうだ。
僕達がお礼を言って帰る時に警備隊隊長が僕に聞いた。
「多分あの時、私が奴の腕を折らなければお前さんあの男を殺してただろ?」
「どうしてそう思うのですか?」
「いや、この仕事を長くしていると相手を殺す覚悟のある奴は目を見れば分かるようになってな。
まあ、もしそうでも今回は正当防衛が認められるだろうから私のやった事は余計なお世話だったかもしれんな」
隊長が自嘲気味に笑う。
「いえ、隊長さんには感謝していますよ。
あんなクズを殺しでもしたらその手で彼女の頭を撫でる事が出来なくなるところでしたからね」
僕はそう笑うとリリスの頭を優しく撫でた。
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