第42話【リリスの元同僚達との交流①】

 僕達が第二応接室から出るとそこにはリリスの元同僚達が待ち構えていた。


「ギルマスとの話は終わったの?」


「それで私達には説明してくれるのかな?」


「そろそろ仕事も終わるし、ご飯でも食べながら久しぶりに女子会を開くとする?」


 周りの女の子達がリリスを取り囲み口々に好奇心をぶつけてくる。


「ええと……ど、どうしようかな?」


 珍しく弱気なリリスに元同僚達が畳み掛ける。


「あっそうだ!

 前にリリスが住んでいた部屋にあなたの私物が沢山あるのだけどあれどうするの?

 いらないなら貰ってもいい?」


 彼女らの言葉にリリスが慌てて反応する。


「待って待って!実は今回の里帰りの目的はギルマスへの報告と部屋の明け渡しの為に私物を回収する事だったのよ。

 だから気に入ってる服とかはあげられないけど家具とかは好きにして良いよ」


 リリスの言葉に彼女達が盛大にツッコんだ。


「いや、家具は部屋に備え付けの物だから!

 寮に入ってる娘達はみんな持ってるから!」


「ちっ、バレたか」


「いやいや普通分かるって」


「あはははは」


 気のおけない仲間たちとの再会にリリスも楽しそうに笑っていた。


   *   *   *


「――それじゃあ僕は宿で待ってるから、ゆっくりと女子会を楽しんでくると良いよ。

 ただ、明日はマヤさんとの約束があるから朝帰りとかだとちょっとだけ困るかな。

 まあ、飲みすぎとかの体調不良は僕が治してあげるけど……」


 ふたりのやり取りを聞いていた彼女達は突然、目を光らせて僕を取り囲んだ。


「あなたがリリスの彼氏?

 ふーん。真面目そうだけど凄いイケメンって程ではないわね。

 でも、筋肉はなかなかのものみたいよ」


 彼女達は口々に好きな事を言いながら僕を品定めしたり、身体を触ったりしてきた。


「みんな、何してるのよ!

 ナオキも触られてデレデレしない!」


 リリスが僕と彼女達の間に割り込んできて引き剥がしにかかった。


「もう!本当になにしてるの?

 ナオキは私の彼氏なんだから皆にはあげないわよ!」


「あはは。ゴメンね」


「まあまあ、減るもんじゃないし」


「減ったら困るわよ!」


 リリスと彼女達の掛け合い漫才は続く。


「で、どうする?

 リリスの彼氏を連れて女子寮に行く訳にはいかないし、何処か宴会場でも借りて盛大にやる?

 お金はかかるけど……」


「うーん。ここはリリスの結婚前祝いと考えてぱーっとやりましょうか」


「みんな……」


 彼女らの言葉にリリスが感動して涙ぐむが、次の言葉で台無しになった。


「「「もちろんリリスの彼氏の財布で!」」」


 ――まあ、現実はそんなもんだ。


 だが、多くの若い未婚女性ばかりと呑む機会などこれから先はほとんど無いだろうし、なんと言ってもギルドの受付嬢をする、いわゆる『綺麗どころ』ばかりだ。

 財布扱いをされたとしてもこれを断るのは世の中の男達からするとありえない選択肢だろう。


「リリス。どうする?

 予算次第だが、出してやれない事もないぞ。

 君の元同僚への感謝の気持ちと急な退職で迷惑をかけた謝罪的な意味合いから受けても良いとは思うが、君が嫌ならば断ればいい」


 僕はリリスの顔を見ながら微笑んだ。


「なんか、その言い方ずるくない?

 それで断ったら私、相当に嫌な女になると思うんですけどー」


 リリスは僕を下から見上げるように上目遣いで誘惑してくる。


(やっぱりリリスは可愛いな。他の娘達も可愛いとは思うけどリリスは頭ひとつ抜けてる気がする)


 ――恋人のひいき目である。


「おーい! ふたりだけの世界に浸るのは別の機会にしてくださーい!」


 彼女らの声に現実に戻された僕達は顔を赤らめながら目を反らしあった。


   *   *   *


 結局、食堂兼カフェを借り切って女子会プラスアルファを開催する事になり当然ながら僕も強制参加になった。


「今日の主役はリリス達だから、まずはこの主賓尋問席に座って貰おうかしらね」


 元同僚のひとりのダリアがリリスの両肩を掴んで座らせる。


「さあ、準備万端で洗いざらい吐いて貰おうじゃないの」


 好奇心に目を輝かせてリリスの周りに集まった女子達のパワーは凄まじく、日頃から場を支配しているリリスも今回ばかりはタジタジになっていた。


「じゃあ少しだけよ」


 勢いに負けたリリスが僕との出会いから旅の途中での盗賊の襲撃事件。

 領都サナールでの出来事からギルドを退職するまでを掻い摘んで説明した。


「なんか凄いね……。

 行動力もそうだけど、そこまで信頼出来る人をつかまえる事が出来る運も持ってるよね」


「まあ、リリスだしね」


「そうね、リリスだしね」


「何よ? その私の名前が形容詞になっている意味は!?」


 怒るリリスに周りの皆は優しい目を向けて全員が頷いていた。


「じゃあ、そろそろ彼の方を攻めてみる?」


 散々リリスをイジり倒した彼女達の標的が僕に向いた。


「えっと、何か飲み物の追加でもするかい?」


「良いんですか? 私達結構お酒が強い娘が多いですよ。

 リリスは……あまり呑ませない方が良いかな……あはは」


「なに? リリスは皆の前でも何かやらかした事があるのかい?」


「皆の前でも……って、もしかしてリリス、彼氏の前でもやらかしたの!?

 あれだけ男の前ではお酒を控えるようにと皆から言われてたのに……」


 僕だけでなく、皆からも同情の目で見られたリリスは恥ずかしさのあまり側にあった飲み物を一気に流し込んだ。

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