第40話【リリスの里帰り③】
僕達は話し合いの結果、マヤ親子と一緒にカルカルへ向かう事になった。
道中ではリリスがマヤに『どんな仕事ならばやっていけるか』や『仕事の間マリをどうするか』などの聞き取りをしていた。
「………うーん。その条件だとなかなか厳しいかもしれないわね。
相当のコネがあるか、せめて娘さんを預かってくれる人が居ないと安心して仕事に従事する事が出来ないわよね」
リリスは受付嬢だった頃に対応した案件からマヤに出来そうな仕事が無かったか記憶を辿る。
「まあ、私が知っている仕事が全てじゃあ無いからギルドで最新の情報を見てもらわないとこの場では正直難しいわね。
でもギルドへは一緒に行ってあげるからまだ希望は捨てないでね」
「はい。何から何まですみませんが宜しくお願いします」
マヤはリリスにお礼を言って頭を下げた。
* * *
カルカルの町へようこそ。
次の日、無事に町についた僕達は護衛を務めてくれたマドルク達にお礼と報酬を渡し、一旦依頼は終わりとした。
本来ならば帰りの護衛も依頼したかったが僕達の用事が何日かかるか不明だったのでその間ずっと待機していて貰う訳にはいかなかったからだ。
「帰りの護衛はその時に都合のつく傭兵に頼むことにしますので今回はこれで依頼完了になります。
帰りの日はまだ未定ですが、もし都合が合えばまたお願いするかと思います。
ありがとうございました」
僕は護衛の3人にお礼を言うと拠点となる宿へと向かった。
「ところで、マヤさんは家の方はどうなっているのですか?」
リリスがマヤに尋ねる。
「以前は借家に住んでいましたが領都へ向かう前に解約をしてしまいましたので今はありませんし、家財道具は多くはありませんでしたが領都で暮らすための資金として全て売り払ってしまっています」
「ああ、そうですよね。
持ち家でなければ引っ越すのに解約もするし、家財道具は馬車が無ければ運べないので売るしかないですよね。
新たに全て揃えるのも相当なお金がかかる事でしょうから何か良い方法を考えないとですね」
リリスは考え込むが良い案が浮かばないようで一度頭を切り替えようとする。
「まあ、とりあえず今日のところは宿に拠点を置いて明日の朝にでもギルドに行きましょう。
私は先に用事がありますので一度ギルドに顔を出して来ます。
あ、ナオキは一緒に来て貰うからね」
「ん。了解した」
「分かりました。
では私達は先に宿で休ませて頂きます。
明日は宜しくお願いします」
マヤはそう言うとまだ少し歩きがたどたどしい娘の手を引いて宿に向かった。
「――さて、これからが正念場よね……」
マヤ親子を見送ったリリスが緊張した表情へと変わり小さく呟いた。
「やっぱり斡旋ギルドに挨拶に行くんだろ?
一緒に行って何かあれば一緒に謝ってやるから勇気を持てよ」
僕はリリスにそう語りかけたが彼女からは予想外の言葉が返ってきた。
「それは嬉しいんだけど本当に一緒に行くのが良いのか分からないのよね」
「なぜ?」
彼女の言葉に思わず反応する。
「うーん。自慢するつもりはないけど私ってギルドの第一受付を担当していたでしょ。
それってギルドの花形、つまりギルドの顔だったのよ。
その私を退職に追い込んだ原因をつくったナオキを連れて行ったら逆恨みをされるんじゃあないかと思ってね。
あ、もちろん私が辞めたのはナオキのせいでは無くて私自身が決めた事なんだけどサナール本部からこっちにどんな理由で辞めたかを連絡する時に事実を曲げて伝わって無ければいいなと……ね」
リリスは僕がギルドに一緒に行くことによっていわれの無い誹謗中傷を受けないかと心配していたのだ。
「なんだそんな事か……」
僕のひと言に彼女が僕を見る。
「リリスは違うと言ってるけど事実として僕の仕事を手伝った為に君はギルドを退職した事になってるはずだからその責任は僕にある。
君が元の職場で責められる可能性があるならばやはり僕が一緒に行ってその叱責は僕が受けるべきだよ」
僕の言葉に呆れた表情のリリスがいきなり僕に抱きついてきて「馬鹿。……でもありがとう」と囁いた。
* * *
――からんからん。
斡旋ギルドのドア鐘の音が響く。
「ようこそ斡旋ギルドへ……ってリリスじゃない!
あなた一体何をしたのよ!?
突然サナール本部から「彼女はギルド従事者規定違反があったため退職をされました」とだけ連絡が来ただけで問い合わせても「詳細は個人情報になりますのでお答え出来ません」と言われて相手にされないとギルマスが怒っていたわよ」
(なるほど、退職した事実は伝わっているけど理由とか詳細は説明してないのね。
正直助かったかもしれないわ)
「で、どういった経緯なのか説明してくれる?」
「あはは、皆はまだ仕事中でしょ?
とりあえずラーズさん……いえ、ギルマスに挨拶をしたいんだけど時間がとれるかな?」
リリスは応対してくれた元同僚にギルマスとの面会が可能かどうか確認をお願いした。
――数分後。
「リリス! 大丈夫みたいだから第二応接室へ行って少し待ってるようにって」
「無理言ってゴメンね。
そうだ、言い忘れてたけど彼も一緒に面会するからね」
リリスはそう言うと僕の手を引いて第二応接室へと向かった。
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