第38話【リリスの里帰り①】
今回の斡旋ギルドからの依頼でかなりの報酬を貰った僕達はしばらく診療所を休んで一度リリスの実家のあるカルカルへ行く事を決めた。
リリスは領都の斡旋ギルド経由で退職届を提出したのでカルカルのギルド職員にはまだ挨拶も済ませていなかった事がずっと引っかかっていたらしい。
「あー、ギルドのみんな怒ってるだろうなぁ。
研修に行ってくると言って仕事を振り分けてもらったのに数日後には規定違反をして退職処分になりましたと連絡が来たらびっくりするしかないよね」
カルカル行きの馬車が出る前日、ギルドの元同僚や上司にお詫びのお土産を山ほど買い漁ったリリスの荷物を
前回はミリーナさん達が居たから撃退出来たが、今回はそうはいかないのでしっかりと準備をしておいたのだ。
「今日から数日間、護衛をお願いします」
「こちらこそ宜しくな」
馬車のスピードはそれほど早いものではないが、やはり歩くにはキツいので馬車の荷台に2人、御者席に1人乗ってもらっていた。
「へー。それじゃあリリスさんは元々カルカルの出身なんですね」
破損すると困るものや高額なものは
「ええ、そうよ。
斡旋ギルドで第一受付の受付嬢を担っていたわ。
まあ、色々とあって辞めちゃったけどね」
「えー!勿体ない。
斡旋ギルドの受付嬢って凄く倍率高いでしょ?
事務処理能力が高いのは当然としてギルドの顔としても美人でないと採用されないって聞いた事があるけど本当なの?」
傭兵の女性、メイナがリリスに問いかける。
「うーん。採用試験では事務処理能力のテストはあったけど容姿で採用を決めているかどうかは分からないわ。
でも、一応新規採用の年齢制限はあるみたいだけどね」
「やっぱりそうよね。
あーあ、あんな華やかな職場なんて私には縁のない場所よね。
まあ、依頼を出しに行くのがせいぜいだわ」
メイナが大袈裟に手をあげてため息をつくと横に控えていた男性、バグルが「ただ黙って立っているだけなら何とかなるかもしれないが脳筋のお前じゃあまあ無理だな。諦めろ」とツッコミを入れた。
「だれが脳筋ですって!?」
メイナとバグルの掛け合いが暫く続いたが御者席にいたリーダーの男性、マドルクが「お前達いい加減にしろ!」とたしなめて掛け合いは終了した。
「いや、お見苦しいところを見せました。
コイツらは腕は良いがまだまだ若いから感情の制御が甘いんだ。
いいか? 俺達は今、護衛の任務を請け負ってる最中だ。
四六時中ピリピリしてろとは言わないが周囲の索敵を怠るんじやないぞ」
「「はい。すみません」」
リーダーに注意され、素直に謝ったふたりはそれぞれの役割を再確認して護衛にあたってくれた。
そのおかげで道中でのトラブルも無く最短の日数でカルカルに到着する予定だった。
順調な旅の最後の夜、不寝番をしていたバグルが怪しげな光を見つけマドルクを起こした。
「何か居ますぜ……。
盗賊っぽくはないが正体がよく分からねぇから念の為に全員起きていた方が良いかもしれねぇ」
バグルは僕達の側で休んでいたメイナを起こすと僕達ふたりと御者の男性を起こすように伝えた。
「すみません。起きてもらえますか?」
メイナの声に僕達は目を覚まし、何かあったのかと周囲を見回す。
ガサガサ。
暗闇の茂みで何かが動く。
「誰だ!」
バグルが茂みに向かって叫び何かが飛び出して来ても対応できるように剣を構える。
だが、音の聞こえた茂みからは何も出てくる気配は無かった。
「風のせいか?気のせいか?
それとも小動物なのか?」
バグルは気を緩めず、だが無闇に茂みを調べる事もせずにじっと待った。
「特に何も居ないと思われるが、念の為に茂みに向けて槍を刺しておくとするか」
バグルがそう言いながら馬車に置いてあった槍を取りに戻った時、茂みが動き声がした。
「待ってください!」
その声に全員が振り向くと、そこには小さな子供を背負った若い女性が茂みから這い出してくる途中だった。
* * *
「――何でそんな所に?」
盗賊などの危険が迫っている訳では無くなった僕達は目が冴えた事もあり、火をおこして温かい飲み物を準備した。
女性はマヤと名乗り、子供をマリと呼んだ。
「すみません。あなた方が普通の旅人か盗賊か分からなかったので思わず茂みに隠れて息を潜めていたのです」
マヤは僕達から提供された飲み物を少し口にしながら自分達が隠れていた理由を話す。
「それは分かりましたが、それよりも何故こんなところを小さな娘さんと歩いていたのですか?
他に連れ立った人も見られないですし、若い女性と子供だけで行くには危険すぎる旅だと思いますが……」
僕は率直に思った事をマヤに聞いた。
「それは、この子を連れて領都サナールへ行きたかったからです」
「領都へ? 僕達は領都から来てカルカルへ向かう途中なのですが領都へはどんな理由で向かわれてるか聞いても良いですか?」
僕はこんな若い女性と子供だけで数日間もかかる道のりを馬車も装備も持たないで向かう事に違和感を覚えて深く事情を聞くことにした。
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