第21話【様々な思惑が交錯する街③】

 僕達がそれぞれの思いを巡らせている時、ミリーナはサラに依頼された調査を行っていた。


(まずは不動産屋に行って新しく契約した物件を確認して、その後でギルドにも顔を出して置かないといけないわね)


 ミリーナはそう順序立ててから不動産屋に向かった。


「こんにちは。伯爵様の使いで参りましたミリーナと言います。

 ナオキ様の契約をされた物件の確認をしたいのですが担当者の方をお願いします」


 伯爵様の使いとあって不動産屋もすぐに対応をして担当者を呼んできた。


「お待たせしました。私がナオキ様の契約担当をしています『ヤード』と申します。

 いつも伯爵様には当不動産をご指名頂きありがとうございます。

 この度はナオキ様の契約物件についてだそうで、この後ご案内しますがお時間は大丈夫でしょうか?」


 ヤードと名乗った男は小娘であるミリーナにも丁寧な対応を取る。伯爵家の使いであるから当然ではあるが……。


「ええ、私もそのつもりで来ましたのですぐにでも確認したいと思います」


「分かりました。では、そのように準備を致しますので10分程お待ちください」


 ヤードはそう答えると資料を準備するために奥の部屋に入っていった。


 ――10分後、不動産屋を出たふたりはナオキが新たに契約した物件に向けて移動していた。


「もともと契約されていた物件からそう遠くない場所に条件の合った物件がありましたのでそちらに変更された次第です。

 あっ、その角を右に曲がって次の角を左に行けばすぐに見えてきますよ」


 ミリーナはヤードの案内で物件の前にたどり着いた。


「こちらの物件になります。

 前の物件に比べて半分以下の大きさの普通の家になります。

 こちらの物件の中を改装して1階を診療スペースにして2階を居住スペースにするようです。

 もう改装業者が入ってますし、内容も簡単な目隠し等なので数日内には出来上がる事でしょう」


 ミリーナはヤードから説明を受けると「中、見ても良いですか?」と聞いてから内部の確認をしていった。


「ふうん。思ったよりも考えられてるわね」


 ミリーナはまだ施工途中の改装段階を見て感心していた。


 診療室の広さからベッドを置くと他には多くのスペースが無い状態だが、彼の治療方法ならば患者の他に自分と助手が入るスペースがあれば十分やっていけるだろう。


(なるほど、待合室を広めに取って順番待ちの患者だけでなく、付き添いの人も待つ事が出来るようにしてあるのね)


 ミリーナは思いつく事をメモしながら物件を確認すると、ヤードに聞いた。


「物件の変更は大丈夫ですので契約の変更を進めてください。

 あと、この物件でこの改装工事を指示したのは誰ですか?

 おそらくナオキ様では無いですよね?」


 彼は治療に関しては超一流だがその他の事に関しては疎い感じがみて取れていたのでおそらく他の第三者がアドバイスをしているのだろうと思い聞いてみたのだ。


「ええ、ナオキ様の代理の方が全て手配をしてくださったのですが、若い女性でしたよ」


(若い女性……。ギルドから斡旋されたのかな?)


「分かりました。この後、斡旋ギルドにも顔を出しますからその時にでも聞いてみることにします。

 今日はありがとうございました」


 ミリーナはヤードにお礼を言い軽く頭を下げると斡旋ギルドへと向かった。


 ――からんからん。


 斡旋ギルドのドアベルが鳴り響く。


「ようこそ、斡旋ギルド領都サナール本部へ。登録ですか?それとも依頼ですか?ってミリーナじゃないの!

 新しい伯爵様からの依頼でもあるのかしら?」


「マーサ、ちょっと調べて欲しい事があってね。

 先日こちらにナオキと言う治癒士の男性が依頼に来たと思うけど、その依頼内容とそれを担当した受付嬢を教えて欲しいの」


 マーサはミリーナの依頼に顔をしかめて「受付担当はともかく他人の依頼内容はギルド規定によって話せないわよ」と守秘義務があるからと断った。


「それが伯爵様からの依頼でも?」


 ミリーナが食い下がるがマーサは「ならば、伯爵様からの開示依頼書を提示してください」と冷静に拒否する。

 ギルド規定に違反すると厳しい処置が決まっているので口頭だけの話では信用がない。


「………仕方ないわね。依頼書を貰ってこなかった私が迂闊だったわね。

 了解、依頼の確認については今は諦めるわ。

 だけど誰が受け付けたかだけは教えてちょうだい。正式な手続きをしてから再度確認に来るから」


「まあ、そのくらいなら……」


 マーサは依頼一覧から誰が受け付けたのかを探して行き、見慣れない名前が書かれてある項目にたどり着いた。


「ああ、この依頼だったのね」


「何か問題でもあったの?」


「問題は無いんだけど、リリスってカルカルのギルドから視察研修も兼ねて来ている子が依頼者の推薦もあって対応したみたいね。

 依頼者もカルカルギルドの登録者で顔見知りだったそうだから」


「リリスさんが?」


「あら、知り合いだった?」


「まあ、知り合いと言うかその依頼者をカルカルから呼び寄せた時にギルドから頼まれて一緒についてきた人よ」


(これは何か裏がありそうね)


「彼女は何処にいるのかしら?」


「えっと、書面上では報告書の提出が終わって街の調査を含む自由日、つまり休暇中ですね」


「そう……。分かったわ、こちらで探してみるわ。

 ありがとう、また依頼があったらよろしくね」


「はい。ご利用ありがとうございました」


 マーサの定形の言葉を聞きながらミリーナはリリスを探しに街に出ていった。

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