第18話【診療所の開業準備と人材確保】
アーロンド伯爵から報酬として診療所の開業許可を貰い、それにかかる費用も全額負担して貰える事になった。
しかし、事業を始めるとはそんなに簡単な事ではない。
確かに伯爵は『診療所を開業する資金を全て出す』と約束してはくれたが、それを遂行する『人材派遣』をしてはくれなかった。
その夜、泊まっていた宿屋に伯爵様の使いの者より診療所を開く建物の権利書と開業資金、そして約束のお墨付きが書かれた書状を渡された。
届けてくれた者によると、あとは自分の好きなタイミングで開業して良いと伝えるように言われたらしい。
(伯爵様にはさぞかし優秀な部下が大勢いるのだろう。
自分はその部下に指示・命令するだけで物事が進むのだから庶民が金と建物を渡されただけでは何も出来ない事が分からないんだろうな……はあ)
僕はため息をつくと次の日の朝、斡旋ギルドへと足を向けた。
――からんからん。
斡旋ギルド領都サナール本部の建物は凄く立派だった。
カルカルの町にあったギルドの建物もそれなりに大きく初めて見た時には貴族の屋敷かと思ったぐらいだが、領都本部は桁が違った。
「ようこそ斡旋ギルド領都サナール本部へ。
本日はギルドへのご登録ですか?
それともギルドへのご依頼ですか?」
入口を入るとすぐにご用聞きの女性が側に付いた。
他の女性達も実に洗練された動きで流れるように人の波を捌いていく。
「登録を……」と言いかけた僕は慌てて「いえ、人材の募集をしたいと思いまして……」と言い替えた。
「人材の派遣ですね? 短期、長期のどちらですか? 男性、女性のどちらか宜しいですか? 必要な人材の職種は何でしょうか? 予算はどのくらいを予定されているでしょうか?」
女性からは矢継ぎ早に質問が飛んてくる。
「えっ えっと……」
考えが纏まらない僕は動転していて初めて訪れたギルドで居るはずのない知り合いを探してキョロキョロと辺りを見回した。
「あれ? ナオキさんじゃないですか。どうしてこんな所に?
依頼で伯爵様の所へ行ったんじゃなかったのですか?」
そこには沢山の書類を抱えたリリスがいた。
「あっ! リリスさん助けてください!
僕はもう、どうしたら良いか分からないんです!」
別に責められていた訳ではないのだが都会のスピードについていけなかった僕はゆっくりと丁寧に対応してくれていたリリスを見つけて嬉しさのあまり泣きついていた。
「ちょっ ちょっと待ってくださいナオキさん。
私、まだ報告の途中なんで少し待ってもらっても良いですか?」
僕がカクカクと頷くとリリスは「くすくす」と笑って「分かりました。では、あちらの個別依頼の個室で待っていてください」と言い、対応してくれていた女性に「カルカルの斡旋ギルド登録者だから自分が対応しますね」と説明してくれた。
* * *
「――お待たせしました」
10分も待っただろうか、聞き覚えのある安心する声が聞こえてきた。
「リリスさん、すみません。お手数をおかけします」
僕は部屋に入ってきたリリスに会釈をして感謝の言葉を伝える。
「いえいえ、領都本部の受付はかなりシステマチックに整備されているので、効率は凄く良いのですが慣れないと今回のナオキさんのようにあたふたしてしまう人も結構いるみたいなんで気にしなくても大丈夫ですよ」
「いやぁ、お恥ずかしい所を見られてしまいましたがリリスさんが居てくれて本当に嬉しかったですよ」
僕は心底ホッとした表情でリリスに笑いかけた。
「そっそれは、ありがとうございます。
それでナオキさんはどんな依頼を頼むためにギルドを訪れたのですか?」
リリスはギルド規定の斡旋依頼書の様式をテーブルを広げて内容の確認をした。
「実は、伯爵様から領都サナールで診療所を開いてはどうか?と打診されまして、奥様の怪我を治療した報酬として診療所の建物と開業に必要な資金の提供を受けたのてすが人員は自分で確保するようにとの事でしたので開業に詳しい人を紹介して貰おうかと思いまして……」
僕が伯爵家であった事をリリスに説明すると「何よ、その謀略の匂いがプンプンする報酬内容は……」と呟き、懐から手帳を取り出した。
(えっと、私がサナールに居られるのは……最長で5日間か。
ちょっとスケジュール的にきつい仕事になりそうね。
でも、ここで彼を手放したら2度と交流する機会が無くなるかもしれないから、この際にツバをつけておかなくちゃ)
考えを纏めたリリスは手帳から視線を僕に戻すとニコッと笑い「この依頼、私が受けてあげますね」と言った。
「本当ですか! ありがとうございます。
こっちには全く知り合いも居ないし、本当にどうしようかと考えていたんです。
あっ、でもリリスさん。こっちのギルドでのお仕事は大丈夫なんですか?
リリスさんの仕事の邪魔になるなら誰かを紹介して貰えるだけでもいいですけど……」
(知っている人に頼めるのは安心出来るけど彼女の仕事の邪魔をしてしまっては悪いもんな)
僕は彼女にそう尋ねるとリリスは「大丈夫ですよ。これも私のスキルアップになりますから」と言って僕の手を握り優しく微笑んだ。
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