第12話【蘇生魔法の思わぬ副作用】

 その後、馬車は無事に領都サナールに到着し、ミリーナとキースは伯爵家へ報告の為に向かい、僕とリリスは近くに宿をとって待機することになった。

 本来ならばリリスもギルドに顔を出さなければならなかったが、大事をとって数日間の休養を貰えることになっていた。


「とりあえず一息つける状態になったけど身体に異常はないですか?」


 僕はリリスの様子がどことなくおかしく感じたので質問をした。


「そうね。昨日くらいから身体が熱っぽい感じがするのと妙にお腹が空くのよね」


 リリスの傷は完治している筈で新たに風邪をひいている感じでもない。

 それなのにそれらの症状があるというのはあの蘇生魔法になんらかの副作用が考えられるとしか思えなかった。


「何か心当たりはあるの?」


 リリスが心配そうな顔で僕を見てくる。


「ちょっと調べてみるよ」


 僕はそう言うと女神様から確認するように言われていた治癒魔法の説明書を頭の中で検索する。

 その中に『治癒魔法を使う時の注意』との項目を見つけて内容を確認する。


「えっと、何かわかった?」


 リリスが聞いてくるが説明文を読み進めるたびに僕の顔が青くなり脂汗がにじんでくる。


 僕の変化を疑問に思ったリリスが僕の顔を覗き込んできた時、僕は思わず飛び退いて次の瞬間リリスの前に土下座をしていた。


「なっ 何をしているのですか?」


 咄嗟とっさの事でリリスも僕が何をしているのか理解出来ず戸惑うばかりだった。


 土下座をたっぷり3分はした後で、ゆっくりと顔を上げた僕はリリスにおずおずと説明を始めた。


「まず、今の君の症状は間違いなく蘇生魔法の副作用です。

 まあ、正確に言うと『蘇生魔法の〜』ではなく『僕の魔力注入量』の弊害と言えるかもしれないけれど……」


「もう少し詳しく説明してくれますか?」


 リリスの問に僕は順を追って説明をすることにした。


「まず、今回の件でリリスさんは死亡するほどの大怪我を負いましたので僕が蘇生魔法を使いました。

 ――ここまではいいですね?」


 僕の言葉にリリスは無言で頷いた。


「次に僕の治療魔法についてですが、患者の治療をする際には僕の体内にある魔力を患者の身体に取り込ませる事により傷や病気を治療しています」


「そんな事は初耳ですよ」


「当然ですよ。リリスさん以外には誰にも話した事が無いのですから」


「そんな大事な事を私に話しても大丈夫なんですか?」


「大丈夫もなにもその事を話しておかないとこれから話す内容が全く理解出来ないものになりますから……」


 僕はそう前置きをして真相を話し出した。


「普通の治療の場合は患者の傷の大きさにあわせて魔力の挿入量も変わるのですが、ほとんどの場合は少しの量で治療できます。

 ですが、リリスさんの場合は蘇生魔法とおそらく最大級の魔力挿入が必要な魔法のうえ、あの時の僕の精神状態が興奮状態だった事により想定以上の魔力がリリスさんの身体に挿入されたようなのです」


「それって……つまり?」


「リリスさんの身体の中で魔力が燃焼しきれないで暴走しかけています」


「ちょっと!? それって大変な事じゃないの!?」


 あせるリリスに僕は冷静になるように伝え、対処方法を告げた。


「対処方法は身体の中に入り過ぎている魔力を吸い出す事で収まるはずです」


「なんだ、対処方法があるんじゃないの。なら早くやってよ」


 リリスはホッとした表情で僕に処置を促した。


「うん。確かに対処方法はあるんだけどその方法が……」


 言い淀む僕の態度にリリスはある事に気がついて思わず胸を隠していた。


「まさかとは思うけど、治療と同じで胸を揉まないと取り出せないとか言わないでしょうね?」


 リリスは冴えた勘でほぼ正確を導きだしていた。


「いや、もとから揉んでないから! 心臓の位置に手を添えているだけだから!」


 僕は必死に弁明する。


「本当にぃ? ただ若い娘の胸を揉みたいだけなんじゃないの?」


 僕の焦りをからかうかのようにリリスが揉むを強調する。


「降参だ勘弁してくれ、本当に……」


 僕は両手をあげて降参のポーズをとり頭を下げる。

 それを見たリリスはクスクスと笑いながら「分かってますよ」と言った。


「ちなみに処置を施さないとどうなります?」


 リリスが興味本位で聞いてきたので僕は「食欲が通常の3倍になって軽く10キロは太る」と答えた。


「それは絶対にやだ!」


 リリスはブンブンと首を振って否定した。


「許してあげるからさっさと処置をしてよ」


 リリスは隠していた胸を突きだすようにして座った。


「えっと……。あの、その……」


 それでもはっきりしない僕の態度にリリスは「まだ何か隠してるでしょ?」と迫った。


「実は……。ごにょごにょ」


 僕がリリスの耳元で言いにくかった真相を告げるとリリスは耳まで真っ赤にして僕に叫んだ。


「この、痴漢!変態!エロ治癒士!!

 絶対に嘘でしょ!本当の事を吐きなさい!!」


 リリスの口撃は止まらない。


「いや、だから全て本当の事なんだ。僕は一切やましい気持ちは持ち合わせてないんだ!信じてくれ!」


 必死に説得する僕にリリスは涙目で「責任を取りなさいよ」と呟いた。

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