第6話
さて、それからまた半月程経った。ナリスタ様の刑はまだ執行されていないわ。当初は側妃達の毒殺未遂で毒杯の刑だったのだけれど、思っていたよりも被害者が多かった。
アインス様以外にもアインス様の側近や従者、学院に通っていた取り巻きにどうやら薬や香の類を使い陥れていたようで被害者の洗い出しや入手元の特定をしている段階なのだとか。
私にとってはもうどうでもいいわなんて思ってたりもするのよね。
マイア様は痺れを切らし、執行を待たずに領地に帰ってしまったわ。いつも一緒に居たから1人になってしまうと急に寂しくなるものね。
「カーナ様、アインス様がお見えです。」
マイア様の居なくなった代わりにたまに顔を見せるようになったアインス様。どういう意図があるのかは分かりませんが、断るのもどうかと思い、毎日お茶を一緒にしています。
今日もアインス様は執務後に私の部屋へ立ち寄りお茶を飲みにきたみたい。
「ごきげんよう。アインス様。今日はなにかありましたの?」
「私をそう邪険にしないで欲しいな。今日は我が妻に贈り物をしにきたんだ」
そう言って取り出したのはアインス様の髪と目の色をした髪飾り。金細工に薄い水色の宝石。
「もう私は領地へ帰るのに頂けませんわ。それにもう私は舞踏会へ出る予定もございませんし。私よりも正妃となるレイナ様に送って下さいまし。立つ鳥跡を濁さずと言うでしょう?レイナ様に余計な心配はかけたく無いのですわ」
和やかに微笑みながらお茶を飲む。貰っても、ね。着飾る予定がない。噂好きの貴族達と過ごす舞踏会なんて興味もないし、これからも遠慮したいと思っているの。
「折角、宝石姫と呼ばれる美しい君を着飾る機会も与えぬまま領地に帰してしまうのは勿体無い。活動的なマイアは暫くすると舞踏会に復帰するだろうが、君は表舞台からひっそりと消えるつもりだろう?」
あら、ばれてしまいましたわ。
「ふふっ。お褒め頂き有難う御座いますわ。大切にしますわ」
私は先の事を口にはせず、髪飾りを受け取ろうとするとアインス様は徐に立ち上がり、私の後ろに回って髪に付けた。
「我が妻はやはり美しい。カーナ、領地に戻らずここに残って欲しい」
アインス様は微笑み、そっと後ろから私を抱きしめて耳元でそう囁いた。
「ふふっ。そう言って頂けるのは嬉しい限りですわ。けれど、私が残ってしまえば大臣や貴族達も黙ってはいないでしょう。それに一途に貴方を思うレイナ様はきっと耐えきれずに今度こそ自害なさってしまうわ」
私は優しくアインス様の手を解くとアインス様は私の横にストンと座った。
「アインス様の気持ちが重く傾く前に私はここを去りますわ。それに私、領地でやりたい事を見つけましたの。」
「やりたい事が叶ったら帰ってきてくれるか?」
珍しくアインス様は眉を下げて覗き込むようにこちらを見ている。
「さぁ、どうでしょうか。私の事よりアインス様の事を考えて下さいませ。まずは正妃様と公務にあたり、子を成す事が最優先ですわ」
私がアインス様を諭すように話をする。アインス様が私の手を取ろうとした時、『アインス様、レイナ様がお越しになりました』と従者から声が掛かる。
「・・・分かった。今行く。」
アインス様はスッと手を引き、名残惜しそうな視線を向けて従者とともにその場から立ち去っていった。
「アイサ、いるかしら?」
部屋の外で待機していたアイサが部屋に入ってくる。
「アイサ、引っ越しの準備を。あと、陛下にも謁見申請を出しておいて。」
「分かりました。」
3日後、陛下達へ城を離れる挨拶を行い、私を乗せた馬車は領地へと静かに向かった。
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