第5話
本人の望まぬ形で婚姻したのなら可哀想よね。ちょっとどころかかなり同情してしまうわ。
「アインス様、元婚約者のレイナ様には連絡を取りましたの?」
アインス様は意外な顔をしている。
「いや?連絡は取っていないがそれがどうしたんだ?」
「現在レイナ様は誰とも婚約なされていないはずですわ。正妃として幼少期から勉強をなさっている1番相応しい方が。レイナ様はアインス様をお慕いしている事は歳の違う私達の耳にも届いておりましたわ。
アインス様との婚約破棄にショックを受けているとはいえ、ナリスタが来るまで仲の良いパートナーだったのですよね?誠心誠意、平身低頭、頭を地面にすり潰す勢いでレイナ様にもう一度会ってみた方が良いと思いますわ。
子を産めぬ役立たずな側妃より価値がありますわ。何なら側妃の私達から手紙を書いても良いですわ」
マイア様も横で頷いている。アインス様は思う所があったのかは分からないが神妙な面持ちをしている。あと一押しかも知れない。
「アインス様、もしかしたらナリスタ様は魔女に関わりがあるのかも知れませんね。陛下にはお話をしましたの?薬物等も同時に調べた方が良いと思います」
この世界には魔法は無いけれど、怪しい呪術や薬を使って人を陥れる人はいる。前世より化学は発展していない。けれど薬となる植物は多く発見されており驚かされる。もしかしたら前世より種類が格段に多いのかも知れないわ。
今世のこの世界は自然と共生する事を当たり前としている感じなのよね。雰囲気は中世のヨーロッパみたい。
因みに魔女と言われている人はこの世界でも同じようで薬草に詳しく呪術や薬を作っている人の事を指している。未だ魔女狩りは無いけれど、出てきてもおかしくはないのよね。
「そうだね。その辺はきっちり調べてみるよ。」
それから私達は当たり障りなく雑談をして部屋に戻った。はぁ、まさかアインス様がお茶会に参加するなんて予想外だったわ。しかも何!?まさかとは思うけれどゲームやラノベの強制力が働いていたの?
キツいわ。
主人公と思われるナリスタ様とそれに振り回された人達。
元婚約者のレイナ様も激しく傷ついたでしょうに。いくら乙女ゲームの可能性があるとはいえ、綿菓子頭の罪は重いわ。私は衝撃的な事実に頭を混乱させながらもマイア様にお手紙を書く。もちろん日本語で。
「はぁ、疲れたわ。アイサ、この手紙を直接マイア様に渡してきて頂戴。私は少し休みます」
アイサならしっかり届けてくれるわ。
その日以降は何事もなく穏やかな日が過ぎていった。
そしてナリスタはまだ牢の中にいる。本来ならナリスタはすぐに処刑となるはずだったが、王太子の発言により再度、取調べる必要が出た為、未だ刑は執行されていない。
アインス様はというと、私達の話をしっかりと聞いていたようですぐにレイナ様の元へ向かったらしい。従者伝で聞いた話によるとレイナ様は家族の心配を余所にアインス様の事を忘れる事が出来ず、他の人と婚約するくらいなら、と修道院に入ろうとしていたみたい。
間に合って良かったわね。でもね、頑なに何年も一途に想い続けられるのって重いわ、と思ってしまうのよね。レイナ様に私やマイア様から手紙を送ったわ。アインス様の助けになっていると良いのだけれど。
私とマイア様は相変わらず日本語で手紙のやり取りをしている。やはり彼女も毒を飲んで前世を思い出したみたい。前世の彼女は30代半ばのラノベを愛するバリバリのキャリアウーマンだったらしい。
気づけば世界が違うし、20年もこっちで過ごしているから少しは落ち着いているけれど、視察をして良い物を見つけたり、と領地改革に全力を傾けたくなるのだとか。アグレッシブな人だったのね。
私達は側妃になってから仲良くなったけれど、馬が合うのだと思うわ。お互いの過去を知ってもっと仲良くなったもの。
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