第10話 カントリーロード-10

 城郭跡近くまで来ると、森が点在している。その森の中へと鉄子は駆け込むと確かめるように木々の幹を触ってみた。その顔が輝いていると絹代には見えた。鉄子は、足元も確かめるように見つめ、そして満足したかのように絹代へ笑顔を見せた。絹代も嬉しくなって微笑んで返した。子供みたいな子だと思いながらも、自分も森に駆け込んだ。鉄子はくるりと大きな木の周りを回ったかと思うと、しゃがみこんで何かを掴み上げた。

「なに?」

 絹代が近づくと鉄子は目の前にきのこを差し出した。うっすらとピンクがかった茶色の小さなきのこだった。

「へぇ、きのこ。こんなところにも生えてるのね。なんていうの」

「これ、キツネタケだ。ほら、けっこう生えてる」

 絹代が足元を見ると、まだ何本も小さな蕾のようなきのこまで生えていた。感心してると鉄子はさらに差し出した。

「ほら、匂ってみな」

「土の匂いに混じって、強いきのこの匂いが感じられた。それは決して悪い匂いではなく、むしろ芳しいくらいだった。

「いい匂いね」

「んだ。炒めると香りが立って、うまいんだ」

「食べられるの、これ?」

「ん。オムレツなんかの具にするんだ」

「へぇ。料理得意なの?」

「うんにゃ。おらは下手だ。おにぎりくらいなもんだ。んだども、やっぱりシメジやマツタケは、なんにしてもうめえぞぉ」

「へぇ、テッちゃんそんなのも知ってるんだ」

「おら、食い意地が張ってるから、食えるものなら何でも知ってるだ。さっきから、あっちこっちの植木に食えるのがあって、嬉しくって仕方ねえ」

「でも、そんなもの食べなくても、ちゃんと食べさせてもらえるわよ、心配しなくても」

「そんなじゃないだ。おらの父ちゃんが言ってただ。人間も自然の中のひとつの生命なんだから、自然から食べられるものを獲って、そんで育って土に還えるのが、本当だって。おらもそう思う。おらもいつか生まれた山で土に還えるんだ」

「なんか、エコロジストかナチュラリストみたいね」

「そっかもしんねえ。んでも、おらの村じゃあ、年寄りはみんなそんただこと言ってたし、おらの父ちゃんもそう言ってただ」

「恋しいのね、山が」

「んん、まだ昨日来たばっかだ。だけど、ここはいいな」

「うちからそんなに遠くないわよ。ここから城跡の横、旭学園の横を抜けたらうちだもん」

「おら、もっとここで遊んでいてぇ」

「でも、服が汚れるわよ。せっかくのおニューなのに」

「んー、そっだな。帰ろうか」

「帰ってから、また来たらいいわ」

 鉄子はあたりを見回した後、掌にきのこを載せてようやく絹代の後をついて歩き出した。


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