十字画帳〈本編〉

真間 稚子

エピローグ-暗夜星夜物語



雪の吹きすさぶ早朝だった。


民家のベランダに人影を見た。

そっと降り立つと、

刺すような寒さの中で白いワンピースに素足をさらした少女がこちらを向く。

彼女は"自分と同じ"背中の翼を持つ侵入者に一瞬丸い瞳を揺らしたが、

すぐに興味はないというように柵の上に真っ直ぐ立ちあがる。


そして、突き放す口調で言う。


「ワタシはツィコット・クライス。

 ワタシはここで死ぬだけなので、関わらないでください」



あまりに真面目な顔で言うので、思わず笑ってしまう。

おっと、今度は怒らせてしまったみたいだ。


「立ち去ってくださー」


「じゃあ、チコだね。ボクと一緒だ」

「…はい?」


「ねぇ、チコ。物語を話してあげるよ」

「…なんなんですか」

「だから、続きが気になるうちは死なないでよ」

「…???」


ボクは、人間と近い姿になれるイロツキと呼ばれる動物の話をした。

そう、彼女やボクみたいに人間みたいな振りしたカラスとか、

ボクの友人みたいに人間に混ざって暮らすキツネとか。そんなやつら。


チコは最初こそ嫌そうに眉を顰めたけど、

しばらくすると隣に座った。


「どうするんです?たった一匹で全て行うのは現実的ではありません。

 職員だっているはず、無謀としか言えません。」

「じゃあ、続きは明日」

「…!!!」

「楽しみにしておいてね。

 何か温かい飲み物と食べ物も持ってくるよ」


そういってボクが翼を広げると小さな声が掛かった。


「あの、」

「うん?」

「アナタの名前はなんと言うんですか」

「あぁ、ボクは知己。歩鳥知己だよ」



これから話すのは、チコに話した物語。

"イロツキ"の動物たちが、

泣いて、叫んで、恋して、笑う為の物語。


君も、次の話を待ちきれなくなってくれたら、

ボクは嬉しい。

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