第59話 計略への誘い
これでも私は忙しいんすけどね。ソウマは色んな事を押し付けて来るんすから。でも、見に来たついでだし、私が一肌脱ぐっすよ。お供さんはヘレイと同じ匂いがするっすから、当てにならないでしょうし。
元々おかしいとは思ってたんすよ。大量の動物がどこからともなく現れるなんて、実際には有り得ないんすよ。アレが何をしようとも、セカイが認めないっす。その辺はタカギも気が付いてると思うんすけど、流石に戦いながらだと詳しく調べる事は出来ないっすよね。
そもそも、この辺りにはこんな量の動物はいないんす。仮に移動して来たとしても、私達がそれに気が付かないはずがないんす。そうすると『突然現れた』と考えるのが妥当なんす。だけど、それが有り得ない事なんす。ここに大きな矛盾が存在するんす。
ただ私が思うに、これは現実に起きてる事なんすかね? 例えばシルビアさんの虚構と擬態を応用すれば、『存在している様に見せかける事』も出来るんじゃないっすかね。
もしこれが事実なら、一向に数が減らない動物達を殺すより、仕掛けを壊す事が先じゃないっすかね。
そうは言っても、仕掛けを見つけるのは簡単じゃないと思うっす。『大量の動物を出現させる』虚構と『仕掛けを隠す』擬態なんでしょうし。
「先ずは死骸から調べるっす」
あの子達の周りには行くと余計な被害に遭いそうっすから、お供さんが両断した動物にするっす。それにしても、お供さんはまだまだっすね。気配を消しきれてないから動物が寄って来るんすよ。
ほれほれ、私は気が付かれてないっすよ。お供さんに気が付かれてないすけどね。その内、気配の消し方をみっちり教えてあげるっす。
さて、魔法の痕跡が見つかると良いんすけど。こういうのはイゴーリが得意なんすよね、今からでも変わって貰うっすか? そうすれば、堂々とあの子達と遊べるし。まあ、そんな事をソウマが許してくれる訳は無いっすね。
そんな事より、普通の死骸にしか見えないっすね。死骸と意識を繋げられると何かわかるかもっすけど、流石に無理が過ぎるっすね。
いや、無理じゃないかも? お供さんが切った瞬間なら、意識を繋いでアレから支配権を乗っ取れるかも? 取り敢えずやってみますか、無理臭いけど試してみる価値は有るっすよね。
☆ ☆ ☆
暗闇の中で最も有利なのは、相手を認識出来る事だ。そして夜は人間が眠る時間で有り、一部の虫や動物達が活発になる時間だ。なのに、何故お前達は結界を消すんだ? 一晩休んでもいいんだ、それ位の時間は稼いでやるのに。
「どいつもこいつも、何してんだ!」
流石に怒鳴りたくなるだろ。いいか、もうすぐ日か落ちるんだぞ。やる事は簡単だ、『体を休める』だけだ。人間はそう出来てるんだ。夜活動する様には出来てないんだ。街中でさえ真っ暗になるんだぞ。ここは街灯なんて洒落た物はねぇんだ。
確かにな、昼間に交代で寝たから元気になったんだろうよ。でもな、今動き出さなくてもいいんだよ。どうせ、風か何かと意識を繋げられる様になったんだよな? 真っ暗でも見える様になったんだよな?
でも危険なんだ。相手はモドキとは違うんだ。暗闇の中で動く事に長けてるんだ。お前等が少しくらい見える様になった所で太刀打ち出来ねぇんだ。
「まさか、これも訓練とは言わねぇよな、ソウマ」
「うわ、ぶつくさ言ってる。気持ち悪いっすね」
「あぁ? リミローラ? なんで?」
「いやぁ。タカギが寂しいじゃないかと思ったんすよ」
「悪いが、お前に構ってる暇はねぇ」
「そう言わずに聞くっす」
いきなり通信してきやがって。勘弁してくれよ全く。それどころじゃねぇんだ、ってこいつが意味なく通信してくるはずがねぇか。何か起きたか? いや違うな、何かわかったんだな。
「所でお前。今どこにいるんだ?」
「そりゃあ、お供さんの直ぐ傍っす」
「はぁ? お供ってアオジシの事か?」
「アオジシって名前っすか? はぁ、名前負けっすね」
「余計な事は良いんだよ! それで? 何がわかったんだ?」
「え~っと、湧きまくって面倒な動物達は偽物っす」
「はぁ? 何言ってんだ?」
「シルビアさんの魔法っすよ。虚構と擬態っていうんす」
「あぁ、そういう事か。糞野郎が姉さんの魔法をパクったんだな?」
「パクるの意味がわからないっすけど、多分それっす」
「それで、どんな魔法だ?」
「虚構と擬態は説明が難しいっす。でも起きてる事は簡単っす」
「だから、それを言え!」
「つまり本物を複製して、数を増やしてるっす」
「このままだと、幾ら殺しても意味が無いって事だな?」
「そうっす。カナちゃんが幾らお祈りしても、セカイの力にはならないっす」
「本体の位置は特定出来たか?」
「おおよそって所っす」
「助かる。直ぐに教えてくれ」
糞野郎、相変わらず狡い事をしやがる。いや、今回はそっちじゃねぇな、らしくねぇミスだ。姉さんの魔法とやらを、糞野郎がパクれた事自体が問題だ。騙せてねぇんだ。下手するとこれまでの苦労が全て水の泡になるぞ。
「リミローラ。この件は姉さんには伝えたのか?」
「これからっすよ」
「それなら急げ。全部ばれてんだよ!」
「どうしてそう思うんすか?」
「姉さんの魔法をどうやってパクれたと思うんだよ!」
「おぉ、不味いっすね」
リミローラは事態の深刻さを理解したのか、早口でポイントを指定すると連絡を切った。魔窟の方はソウマ達に任せるしかねぇ。だけどムカつくよなぁ。
てめぇのシマだから好き勝手すんなってか? それとも、俺達がやってる事は全てお見通しってか? 冗談じゃねぇぞ。それで魔法を真似て嫌がらせしたのか?
ここは糞野郎の土俵なんだから、そもそも不利な戦いだ。コソコソと隠れるしかねぇ。それでも歯を食いしばって抗って来た連中を嘲り笑ってんじゃねぇよ。
人間の意地ってやつを甘く見るなよ、糞野郎!
「アオジシ、聞こえてるな」
「あぁ? タカギか?」
「俺は少しこの場を離れる」
「なに言ってんだ? ガキ共の事は諦めんのか?」
「そうじゃねぇ! 動物が溢れる原因がわかったんだよ。俺はそれを止めに行く」
「てめぇだけでやれんのか?」
「あぁ、任せろ。お前はこのまま何も知らないふりをして、暴れ続けろ」
「ははっ、それはそれで面白れぇ」
☆ ☆ ☆
「そうか。助かったよ、リミローラ」
「私はタカギの代わりに、お姫様の警護をするっす」
「わかった。だが、早めに戻ってくれると助かる」
「やっぱりっすか。それで何をするんすか?」
「この機に王都と主要都市を解放する。いつまでも後手に回るのは、癪に障るんでね」
「そういうのは、シルビアさんとやって欲しいっす」
「君の力も必要なんだよ」
「英雄の方はどうするんすか?」
「イゴーリにやってもらう」
「それなら良いっす」
私はリミローラの通信を切ると、シルビアさんに視線を送った。深刻な事態だ、神妙な面持ちは理解出来る。だが、決断しなければならない。
「計画を前倒しにしましょう、ソウマ」
「はい」
その言葉が私の迷いを断ち切らせる。立ち止まっている暇などない。私は席を立つと扉に向かって一歩を踏み出した。
「取り敢えず国王へ報告して参ります。儀式には必要なお方ですから」
「お願いね、ソウマ」
「かしこまりました」
決して有り得ない事では無い。カーマが作り上げた技術の粋が、こんなにも簡単に真似られるとは考えてもいなかった。それ以前に、問題は私達の行動がアレに筒抜けであった事で、相も変わらず生殺与奪の権利をアレに握られてる事に他ならない。
恐らくこれは脅しだ、「意に沿って楽しませるならば、このまま生かしておく。壊さないでおく」、どうせそんな所だろう。気に入らなければ一切を消し去り、別の文明を創り上げるのだから。
こんな状況でも冷静に判断を下せるソウマは、やはり普通ではないのだろう。しかし心を持つ限りは動揺するのが自然だ。彼はそれを表に出さないだけ。私はその強さに応えねばならない。
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