第47話 さぁ始めようか
「ミサちゃん。それで、解決策は思い付いた?」
「とっくに。でも、少しやり方を変える」
「それで? どんな作戦なの?」
「海の事は海の生き物に解決させる。毒については、お姉ちゃん達とパナケラさんにお願いする」
今回の問題は二つ。怪物の脅威と撒き散らす毒。但し毒に関しては、人間にだけ影響が有るんだと思う。少なくとも湾内に浮いてる魚は、お姉ちゃんの説明通りで密集し過ぎて息苦しくなった。
先ずは予定通り、おじさんとお兄さんとお姉ちゃんを中心に、海を綺麗にする生物を集めて貰う。それを少し増やして、漁師さん達に海へばら撒いて貰う。
但しこれは、自然が持つ浄化作用を多少手助けするだけで、物凄く時間がかかる。だから、早く他の街の結界を強化してもらう。どの道、私とカナだけで出来る事じゃない。素直に大人の手を借りる。
怪物退治の基本的なやり方は変えない。一時的になら、カナは湾内の魚達を操れると思う。でも、それでは意味がない。カナと私がするのは倒す手前まで。
止めは、意思疎通が出来る賢い生き物を中心に、海で生きる生物にやってもらう。海で勝手な事をする奴から、自由を勝ち取る。
「結界の件は安心して。直ぐに手配するから」
「パナケラさん、ありがとう」
「ミサちゃん。私も頑張るわよ」
「そうだな、俺達の街は俺達で守るんだ」
「お姉ちゃん、おじさん。ありがとう」
良いんだ、これで良いんだ。認めたんだ、私は弱いんだ。今の私では、例え命を賭けたってカナを守れない。封じられた力を解放したところで、怯えていては何も出来はしない。
それに、イゴーリさんが英雄を倒し続けたとしても、パナケラさんが人間を守り続けたとしても、カナと私がアレに対抗し得る力を手に入れたとしても、恐らく今までと何ら変わりはない。
結局はセカイで暮らす命が、アレと戦わなければならない。本当に必要なのは、私達を守ろうとしてくれるおじさんやお姉ちゃん達みたいな存在なんだ。
私は怖さを知った、弱さも知った。だから、ここで勇気を手に入れる。常に先頭で戦う為に。
☆ ☆ ☆
ミサがやる気で、みんなが一気に動き始めました。お姉ちゃんのお兄さんは、漁師さんを何人か連れて行きました。残った漁師さんにお姉ちゃんが指示をしてます。
それにしても、色んな事があった一日でした。もう直ぐお日様が沈みそうです。でも、今日はまだまだ終わりません。
みんなが頑張ってます。薄暗くなる中で、入り江の外まで小さな舟を運ぶみたいです。「海に出ないと始まらねぇ」って言ってます。
海に出るって事は、結界の外に出るって事です。今はドロドロしてるし危ないです。でも、イゴーリさんが頑張ってるからこそ、海に出るのは今しかないかもしれません。
そして私は、お姉ちゃんにお願いして、みんなにご飯を作る事にしました。今の私に出来るのは、こんな事しかないですから。
今更ですけど、私は何がしたかったんでしょう。ミサが心配するのに、ただの役立たずなのに、何か出来るとでも思ってたんでしょうか。
ミサの様な凄い事が出来ると思ってはいないんです。でも、ミサの代わりになれると思ってしまったんです。本当にバカですね。
ミサは自分の力で乗り越えました。だから、私も乗り越えます、私の出来る事をします。お料理をして、祈るんです。頑張ってるみんながお腹いっぱいになる様に、怪我しない様に、笑っていられる様に。
だから海さん、風さん、大地さん、お願いします。
イゴーリさんを守って下さい。漁師の人達を守って下さい。この街で暮らす人達を守って下さい。お姉ちゃんを守って下さい、お兄さんを守って下さい、おじさんを守って下さい、パナケラさんを守って下さい。
ミサに力を貸して下さい。
そして私は、みんなが漲るお料理を作るんです。食べたらウォ〜ってなって、グゥァ〜ってなって、おりゃ〜ってなるんです。
☆ ☆ ☆
カナちゃんが料理をしたいと言い出したので、私は市場にある食堂の場所を教えた。それに、あの子の腕前は知っている。
本当は味わえる時間が有ればいいけど、こんなバタバタした状況だと、空腹を満たすだけになりそうで残念だ。
男衆は班分けをし、調査をする為に動き回ってる。一つの班は怪物の監視を始めた。もう一つの班は湾内の魚を調べている。ただ問題は、どうやっても舟が出すのが難しい事だ。
もう直ぐ日が暮れる、沖に向かうのは危険な時間になる。せめて、まともな漁船が動かせれば別だろうけど、そう上手くは行かなそうだ。
怪物は今も尚、この街に近付いているらしい。来るなと言って引き返す相手では無かろう。恐らく明け方には、入り江の近くまで到着する。
それに、怪物がどれだけ大きいかわからないが、戦うとなれば大きな波が街を呑み込む可能性は高い。
女性陣が家々を廻って、いつでも避難が出来る様に呼び掛けている。それとて、避難する場所は特定出来ない。
昼間でも護衛も無く街を出れば、動物に襲われて死ぬ。夜中なら尚更に危険だ。街の中に、津波から逃れる場所などない
やる事が有り過ぎて、何から手を付ければいいか全くわからない。寧ろ何が適切なのか判断出来ない。それでも兄と小さい兄が、懸命に頭を働かせて指示を出している。
そんな中で、パナケラさんが口にした言葉は、私達を凍りつかせた。
「明日はいつも通りに市場を開いて下さいね」
何でそんな事が言えるのか、私には信じられなかった。思わず声を荒げそうになる。そんな私を止めたのが、カナちゃんだった。
胸の前で手を組み目を閉じる。その姿は静謐さと荘厳な雰囲気を兼ね揃え、私は思わず息を呑んだ。
暫くするとカナちゃんの体から光が溢れた。私はこの感覚を知っている。これは少し前、死の淵に居た私を救い上げてくれた力だ。
カナちゃんから溢れた光は、私を優しく包み込む。そして語り掛ける。「大丈夫、誰も死なない」、それは私の不安を容易く吹き飛ばす。光は、やがて街中に広がっていく。そして皆が足を止め目を細めた。
「これがカナちゃんの力よ。あの子は色んな想いを受け取って、奇跡を起こすの。だから信じてあげて欲しい。あの子達は、私達の希望なの」
「パナケラさん……」
「詳しくは言えないし、言った所で理解が出来ない。でも、滅亡の危機すら乗り越えて、悠々といつもの日常に戻る。それが結果的にあなた達を守る」
パナケラさんの言葉が半分も理解出来なかったけど、言われるまでもない事が一つ有る。あの子達は命の恩人だから、誰に何を言われようと信じている。
それに、私はあの子達のお姉ちゃんだから。頭を、足を、腕を、体を動かし血の一滴まで全てを注いで、あの子達が進む道を作るんだ。
そして私は手を叩き、カナちゃんに見惚れていた仲間達の注目を集め、声高に叫ぶ。
「準備は終わってないよ! さぁ、これからが本番だよ!」
恐らく、この光が転機となった。そして朗報が訪れる。戦いが始まる。
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