第44話 浄化の方法を考えよう

「お、お、おばあちゃん? 誰の事かな?」

「う〜ん、いいや」

「何が?」

「パナケラさんが困ってそうだし。聞くのは止めるね」

「う、うん。ありがとう。それで、ミサちゃんは?」

「ミサはお姉ちゃんと一緒に出掛けたよ。パナケラさんも行く?」

「そうね。私も一緒でいい?」

「うん、行こ」


 パナケラさんは、お姉ちゃんとは違う感じの美人さんです。何だかホワワンです。でもね、私はわかっちゃったんです。

 パナケラさんの内側は、ごごごってなってます。きっと凄い人です。お姉ちゃんと同じ位、頼りになると思います。お姉ちゃんだって凄いんです。


 そして、おじさんは照れてます。パナケラさんと目を合わせないです。一言も喋らずに道案内さんになってます。仕方ないよね。お胸がおっきいし。

 ぎゅうってされると凄く柔らかくて、ミサの次くらいに心地良かったです。でも、ぎゅうはミサが一番です。


「ところで、結界はカナちゃんが張ったの?」

「ミサと一緒にやったんだよ」

「凄いね〜」

「凄いのはミサだよ」

「カナちゃんも凄いよ」

「えへへ、そっかな」


 おじさんは少し寂しそうですけど、パナケラさんが手を繋いで歩いてるので、私は楽しくなってきました。

 見上げるとえへへって顔をするんです。なんでしょうか、可愛いです。


 そしてパナケラさんは、やっぱり凄い人でした。病気とかの治し方を、わかり易く教えてくれました。


「あのねカナちゃん。治療するには二通りの方法が有るんだよ」

「二通りってなあに?」

「一つはね修復。これはカナちゃんが張った結界の効果と同じだね」

「それが修復?」

「うん。痛い所はどっか行け〜って感じかな」

「そっか。もう一つは?」

「創造っていうの」

「そ〜ぞ〜?」

「例えば、ガルムに腕を食べられちゃったとするでしょ?」

「パナケラさん、痛いよ」

「そうだね。それに食べられて無くなった腕は元に戻らないよね?」

「うん。ねぇパナケラさん、怖いよ」

「ごめんね。でもさ、治す方法が有るんだよ」

「どうするの?」

「代わりの腕を創るんだよ」

「どうやって?」

「カナちゃんが結界を張る時は、どうしてるの?」

「お願いしてるよ」

「一緒だよ。お願いするの」

「それで、無くなった腕がびよんってなるの?」

「そうだよ、びよんってなるよ」

「凄いね!」

「そうでしょ。でもね、ちゃんと想像しなきゃ駄目だよ」

「そ〜ぞ〜? さっきのそ〜ぞ〜とは違うの?」

「うん。例えばさ、男の人に女の人が生えたら困るでしょ?」

「そうだね」

「お願いする時は、どんな腕か出来るだけ細かく伝えるの」

「陣に書いてもいいの?」

「良いよ。カナちゃんが伝え易い方法でね」


 頭の良い子とは聞いてたけど、予想以上かもしれない。この子は真理を理解しているんだろう。そうでなければ、こんな結界を張れるはずがない。


 そういえば、カリスト様が教えて下さったのは、私がこの子と同じ位の歳だった。当時の私は全く理解出来なかったけど、この子はもう理解してるんだ。


 ☆ ☆ ☆


 いいかい。一つの例外を除いて、全てはセカイから生まれるんだ。だから魔法を使う時には、自分の意思をセカイと同調させるんだ。そして願いを伝える。

 その願いがセカイの意に適ったら、力を貸してくれる。それ以外の方法で、強引にセカイの力を引き出そうとすば、禍々しき想念に呑まれて英雄へと堕ちゃうんだ。


 つまり魔法と異端が使う力、それに英雄が使う禍々しい力は、セカイから借りてるんだ。違うのは借り方と使い方だよ。英雄は強引に力を引き出しているから、あんなにも歪んでいるんだ。だから、魔法はちゃんと覚えようね。そうじゃないと、英雄になっちゃうよ。


 ☆ ☆ ☆


 私達は異端と違って、セカイの意思を容易く感じられる訳ではない。だから陣や式を用いてセカイへ問いかけ、魔法を発動させる。

 実際には、長い時間の中で形式が重要視される様になり、本質が忘れ去られていった。医療局や魔法研究所の職員でも、理解してない人は多い。


 でも、この子は理解している。つまり、形骸的な技術にとらわれる事なく、力を行使できるという事。


 恐らくエレクラ様の狙いはそこに有る。いずれカナちゃんとミサちゃんは、私達には到底不可能だと思える程の大きな力を使える様になる。それこそ、次元の異なる神様紛いの何かと対抗出来る程の。


 今はまだ早い。大きな力を引き出す訓練をしなければならない。但し、今回ばかりは事が大きくなり過ぎた。だから、私達が手伝うからね。


 ☆ ☆ ☆


「だからよぉ! 早くミサを連れて来いよ!」

「もう向かわせてる、妹達は直ぐに来る。それより君は」

「君じゃねぇ、イゴーリだ!」

「悪かったイゴーリ。色々と知ってる風だったが、イゴーリは原因まで理解してるのか?」

「バケモンの糞だろ? 見てりゃわかる」

「よくわからないが、把握はしてるのか。それで、俺達に何をさせようと?」

「それはミサ次第だ。何も指示されてねぇのか?」

「一応、妹はクラゼリーとアラ貝に、希望を見出している」

「あのなぁ、んなもんで何となると思ってんのか?」

「実際には、怪物を倒さないと汚染物質の拡散は終わらない。既に汚染物質を取り込んだ魚達は、廃棄するしかない」

「んで? そいつ等を増やして海を浄化した後は? 更に生態系をぶっ壊して終わりか? ふざけんなよ!」

「あんたは漁師を馬鹿にしてんのか? ふざけんなはこっちの台詞だ!」

「あぁ? なら考えが有るんだな?」

「当たり前だ。どちらも食材としての価値が高い!」

「けっ、試すだけ無駄だろ!」

「そんな事は無い! 港町の意地を見せてやる!」


 なんだか面白いな。カナの結界は、こんなにも早く効果を表すのか。

 俺は、端からこいつ等を威嚇した、無理難題も吹っかけた。でもこいつ等は冷静だった。少し物足りなくて挑発をしてみたら、こいつ等は怒ってみせた。


 誇りを傷つけられて怒るのは、人間である証だ。こいつらはもう、有象無象の操り人形じゃない。自我が有り、誇りを持ち、自ら考えて行動が出来る人間なんだ。勿体ねぇよ。こいつ等が未だに名無しなんてな。

 

 エレクラ様。こいつ等は戦力になるかも知れない。でもな、アレが関わる限りどんな時だって状況は悪くなるんだ。


 それより外の状況だ。タカギだけじゃ苦戦するはずだ。側に一人居るようだけど、弱そうだし頼りにならねぇ。早くこっちの事はパナケラに任せて、タカギを助けてやらねぇとな。


「おい! クラゼリーとアラ貝だったか? 取り敢えず持って来い!」

「水揚げした中には無かったから、これから捕る。少し時間をくれ」

「時間がねぇんだ! 早くしろ!」

「おい! シャチの居場所も特定しろ!」

「わかってる。みんな、手分けして作業に取り掛かるぞ!」


 どんな馬鹿馬鹿しい方法だろうが、ガキの遊びみたいな方法だろうが、元からカナとミサに任せる手筈だ。でも、あいつ等が来てから準備するなんて、時間がかかり過ぎる。

 頼むぜ、下手を打てば街が無くなるどころじゃ済まねぇ。こんな所で全てを終わりにする訳にはいかねぇんだ。


 ☆ ☆ ☆


 話し声が聞こえなくて理由はよくわからないけど、町長さんが凄く慌ててた。お姉ちゃんは困ってた。

 でも、お姉ちゃんは直ぐに役所の人達へ指示を出し始めた。一層の事、お姉ちゃんが町長さんになればいいと思う。


 ただ正直な所、町長さんとお姉ちゃんの会話内容なんてどうでもよくなってた。


 ばあちゃんと同じ位に強い人が、二人も結界内に入って来たのを感じた。今回の騒ぎと関係ないとは思えない。だけど、害意は無さそうだし、お姉ちゃんのお兄さんが何とかしてくれると思う。


 問題なのは結界の外。凄く気持ち悪い気配がしてる。なにか悪い予感がする。

 

 街に着くまでずっと動物に襲われてた。それ自体が有り得ない事だった。でも、結界の外に充満してるのは、それ以上に有り得ない事だと思う。


 カナ。私、怖いよ。何が起ころうとしてるの?


 大きな怪物が海を汚染し続けてるのは、対処し辛いだけで大した怖さを感じなかった。でも、街の外に広がる気配は違う。段々と震えが止まらなくなって来る。


 駄目。怖いなんて駄目。私がカナを守るんだから。でも、怖いよ。カナ、側に居てよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る