所属してた野球部が廃部になったから、女子小学生野球の監督になった。~え? 彼女たちが優勝できたら廃部撤回、ってマジですか!?~

あざね

オープニング

プロローグ え、廃部……!?








「野球部は、廃部だ」

「え……?」



 高校に入学して間もなく。

 退屈な授業を終えて、練習に向かった俺を待っていたのはそんな言葉。

 先に部室にやってきていた先輩たちはみな、一様にうつむき震えている。桜も散り切った五月。これから次の大会を目指して、一致団結しようという時の出来事だった。



「どういう、こと……ですか?」

「我が鹿央高校の中でも、野球部はとかく弱小だ。これ以上、役立たずであるこの部活に資金を投じることはできない」

「そんな!? いくらなんでも、横暴だろ!!」

「悪いが、決まったことなのでな」

「…………うそ、だろ……!?」



 淡々とした口調で語るのは、教員らしき人物。

 彼はこれといった感情も見せずに、部室を出て行ってしまった。残された俺たち野球部員は、ただただ呆然と立ち尽くす。

 全員が事態を受け入れられずにいた。



 しかし、その中でもハッキリとしていたことがある。

 それはこの瞬間に、俺たちの目標や生き甲斐、そして青春が消えたということだった。







 私立鹿央高校野球部は、お世辞にも強いとは言えない。

 県大会でも毎年二回戦が良いところだし、最高成績も三回戦程度。ハッキリ言って、弱小と呼ぶのが正しいと思われた。



『坂本、どうして鹿央なんかを選んだんだ?』



 中学時代のチームメイトは、そう俺に言っていた。

 全国大会ベスト8に、ベストナイン選出。その実績のお陰か、俺に声をかけてくる野球名門校はたしかにあった。そちらを選べばきっと、甲子園大会を目指せただろう。


 ただ、俺には思うことがあったのだ。



『どうせなら、強豪を倒して甲子園に行きたい』――と。



 ずいぶんと調子に乗っていたと思う。

 でも、それが成し遂げるだけの力があるという自信はあった。

 だから俺は名門からの推薦を蹴って、地元の私立鹿央の門を叩いたのだ。



「それなのに……!」



 通学路の途中にある河原に寝そべり、俺は歯を食いしばった。

 拳を握りしめ、地面を叩く。とにかく悔しくて仕方ない。実力や怪我で道が途絶えるのは、まだ自業自得だと割り切れる。だけど、あんな終わり方はあんまりだ。


 俺も、先輩たちも、誰もかもが納得できない。

 それでも、いくら頼み込んでも決定は覆らなかった。



「はぁ……」



 そんな感じで数日が経過して。

 俺はこうして、ため息をつくのが日課になってしまった。

 いくら頑張っても無意味。次第に、そんな諦めが胸の中に芽生え始めていた。



「もう、帰るか……」



 毎日のように、河原で夕日が沈むのを眺める日々。

 今日もいつもと同じように帰宅準備をしようと、おもむろに身を起こした。


 その時だ。



「ふぅん、貴方が坂本昌磨くん?」

「……え?」



 鹿央高校の制服を着た女子が、俺に声をかけてきたのは。


 派手な金髪に、青の瞳。

 おおよそ日本人離れした外見の彼女は、くすりと笑うとこう言った。



「貴方、野球が上手なのでしょう?」――と。



 いったい、どういう意図なのだろうか。

 俺が眉をひそめると、それを見た相手はまたおかしそうに笑った。




「貴方に任せたい子たちがいるの。もし、その子たちが大会で優勝できたら――」




 そして腕を組みながら、こう続けるのだ。




「鹿央高校野球部復活の願い、叶えてあげる」

「え……?」




 彼女が何者かは分からない。

 それでも、嘘をついているようには見えなかった。




 突然、降って湧いた希望。

 俺がそれに縋らない理由は、一つもなかった。



 

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