第53話 避難

『ロンドデスモース魔獣学校』


「校長、避難は順調に進んでいます。子どもや妊婦は高等部の校舎に、その他の住民は幼等部と中等部の校舎に分かれて避難をしてます」


「そうですか。見張りは先生方で交代でしましょう。もちろん私もです」


「はい。お願いします。明日僕は図書館と学校こっちと両方の警護をしますので学校こちらは校長にお任せします」


「わかりました。お願いしますフロート先生。くれぐれも気をつけてください」


「はい。失礼します」


 クレメンスは校長室を出てそれぞれの校舎の避難状況を確認して回った。


ーザワザワー


「おっ、クレメンス久しぶりだな」


「エルリックさんお久しぶりです」


「大変なことになってるな。いざとなったら俺も加勢するからお前も無茶するなよ」


「ありがとうございます。マスタングさんがいると心強いです」


 校舎を見て回るクレメンスにさまざまな人が

声をかけていた。元騎士団員や学校のOB、OGなど皆口々に協力すると言ってくれた。


「せんせー!こんにちは!」


「オリバーくん、こんにちは」


「せんせー、なにかあるの?みんななんだかいつもとちがうから・・」


「そうだね。実は明日ちょっと危ないことが起こるかもしれないんです」


 オリバーの目線に合わせてしゃがみ、目を見て話をするクレメンスにオリバーも真剣に耳を傾けて聞いていた。


「あぶないこと?」


「はい。だからみんなが危なくないように学校ここに集まっているんです」


「ここならあぶなくない?」


「大丈夫です。僕や他の先生もいます。みんなが護りますから安心してください」


「じゃあぼくもみんなをまもる!」


「それは心強いですね。ではオリバーくんはお母さんの近くでお母さんを守ってください」


「わかった!」


 元気よく頷くオリバーの頭を優しく撫でたクレメンスは、学校を後にし隣りにある図書館に向かった。


「クレメンスさん!ちょうどよかった。ちょっとご相談が」


 図書館のスタッフが困った様子でクレメンスに声をかけた。


「どうされました?」


「学校に避難する予定のご家族が1組、間違えてこちらに避難してきてしまって。学校に移動してもらうようにお願いしたのですが・・・」


「いやだ!俺も図書館こっちがいい!」


「我儘を言わないの!遊びに来ているわけじゃないのよ!」


「・・あのようにお子さんが嫌がってしまって」


 今回3ヶ所に分かれて避難された住民たち。単純に3等分された訳ではない。乳幼児や妊婦、高齢の人、病人や怪我人など1ヶ所に集まるといざという時に護りきれない可能性がある。そのため高齢の人は王宮。乳幼児や子ども、妊婦は学校。怪我人や病人は図書館に振り分けた。


 そしてその他の住民も元医療班の人を図書館にしたり、若く動ける人は王宮、元先生の人を学校などと考えられていた。


「あの子はなぜ図書館ここがいいのですか?」


「お友達が怪我をしていて図書館こちらに避難しているようです」


「お友達が心配なのですね」


 クレメンスは泣きながら嫌だと叫ぶ男の子に近づいていった。


「こんにちは。僕はクレメンスといいます。あなたのお名前を教えてくれますか?」


 男の子の前に膝をついてしゃがみ顔を覗きこむ。


「っひっく、ぐず。・・ロベル」


「ロベルくん。どうしてここにいたいのか教えてくれますか?」


「えぐっ、だっ、て、アルが・・・アルがいるっ、からっ。けがしてっ、る、から、おれがっまもる、んだっ!」


 どうやら足を折って歩けない友達のアルくんが心配で、ここから離れたくないということのようだった。


「そうだったんですね。ロベルくんはとても優しいですね」


「だって、ひっ、く、アルはだい、じなっ、ともだ、っちだか、ら」


「そうですね。友達は大切にしないとですね。ではアルくんに会いにいってみましょう」


 ロイドの体を抱き上げて、クレメンスは怪我人が避難する奥の部屋へ向かった。


「すみません。アルくんはいますか?足を怪我しているようなのですが」


「あ、クレメンスさん。アルくんでしたら右手の奥から3番目のベッドです」


「ありがとうございます」


 ロベルを下ろして教えてもらったベッドに近づいていく。


「アル!」


 ベッドに腰かけて座る男の子にロベルか駆け寄っていった。


「ロベル!どうしたの?」


「アルは自分で歩けないでしょ?だからおれがまもるんだ!」


「ありがとう。でもぼくはだいじょうぶ。お母さんもいるし、けがもお姉さんたちが診てくれるから」


「でも・・」


「じゃあロベルはぼくのかわりに弟のエルをまもってくれないかな?エルはお父さんと学校に避難しているんだ」


「エルが?・・わかった!おれがエルをまもるから、アルはあんしんしていいからな」


「うん。ありがとうロベル」


 アルはロベルの頭を優しく撫でて笑った。ロベルはアルより2つ年下でエルの1つ年上だ。アルにとってはロベルも弟のように可愛く思っており、よくエルも含めて一緒に遊んでいた。そしてロベルもエルを弟のように思っていた。


 その後ロベルは無事に父親と母親と一緒に学校へと避難した。

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