18話 合流
翌日。
我々は昨晩決めた予定通り、他の冒険者パーティーと合流するために動いた。
一晩経ったこともあり、生きている人間よりも夜のうちに殺されたであろう新鮮な死体兵士に出会った回数のほうが遥かに多かったが、我々は何とか8人の冒険者を見つけた。
そのうち2人は仲間になることを拒み、事が収まるまで隠れることを選んだが、我々は人数を9から15にまで増やした。
この人数であれば、障害物を背に立ち回って入れ替わり休憩することで、それなりの量の死者軍団にも対処できるだろう。
しかしそれはあくまでも死霊術の影響範囲の外周での話だ。
死霊使いに近づけば近づくほど、彼の持つ邪法具の力は強まり、死者たちの戦力も上がっていく。
レベル20台の戦士が私だけのこの冒険者混合軍では、中心までたどり着くことは難しいだろう。
パーティーの主力である私とゼラは道中ほとんど手を出すことなく、仲間のカバーに専念していた。
これはダンジョンでも戦場でもよく取られる基本的な戦略だ。
戦士の体力には限界がある。
主力の体力を雑魚に消費して、突発的に強力な敵と出くわしてしまった場合に対処できなくなることを避けるためだ。
魔物と言うと、実は皮肉にも我々は人類の宿敵とも言える彼らに救われていた。
魔物には我々生きている人間と死霊術によって復活した死者との区別はつかない。
それは死者の軍団にも言えることで、生に対する憎悪という本能によって動いている彼らは、相手が魔物であろうと何であろうと容赦なく襲いかかる。
ここがダンジョン内でなければ、魔物がいなければ、夜の間に死者軍団が無限増殖してしまい、我々に勝ち目はなかっただろう。
まぁ、逆にここがダンジョン内でなければ、あの死霊使いは死霊術の邪気を発した瞬間に、すっ飛んでくる聖教会の狂犬共に浄化されただろうが。
やがて日が傾き、私とは違って主人公たちの存在を知らない冒険者達が、もう他に生存者はいないのかと絶望し始めた頃、我々はついに見つけた。
ロイたちが率いる冒険者軍団だ。
我々は彼らと合流した。
さすがは主人公だ。
私たちは一日中探し回って数人しか冒険者を見つけられなかったというのに、彼らはすでに3桁近い仲間を集めていた。
しかもその中にはレベル20台の戦士も2人いた。
面具の力で外見も声も変わっている以上、私の正体がバレる心配はない。
私は普通に彼らの前に立った。
最初に私に話しかけたのはエレアだった。
彼女は随分と疲れているようだった。
無法者とも言える冒険者達を纏めるのは簡単なことではない。
それに責任感の強い彼女は、皇族として民たちを守らなければ、とでも思っているはずだ。
「まさかこのダンジョンにイルシオン学院の生徒がもう1人いるなんて思いませんでした。
心強いです」
まさか私の正体がイルクだと思いもしていないだろう彼女は、心から喜んでいるようだった。
「ああ、私もまさかこんなところでお前たちに会えるとは思ってなかったよ」
「私達のこと知ってるのですか?」
私はうなずいた。
彼らは私との決闘の一件もあり、初等部ではかなりの有名人だ。
よほど噂話に疎いか、長期クエストに出ている者でもなければ、彼らを知らないものはいないだろう。
ここで知らないふりをするのは少々不自然だ。
「当然だ。
皇女殿下に、あのイルク・フォルダンを下した期待の新星だ」
そう言って私はロイを見た。
彼もまたあまり休めていないようで、顔に疲労が見えた。
彼は首を振り、律儀にも私のために釈明した。
「あれは片手のハンデを貰ってた。
正式な決闘だったら勝ててなかっただろう」
しかしそうは言いながらも、彼の目には闘志があった。
「でももし次があったら、今度は正々堂々勝ってみせる」
「そうか。
応援してるよ」
私としては次なんてごめんだが、口頭では応援しておいた。
少し離れたところで私の面具をじっと見ながら、なにか考え込んでいたソフィが口を開いた。
彼女は最初に出会った時のように、擬態ネックレスで自分の姿を人間に変えていた。
エルフはその美貌ゆえ、そのままの姿で出歩くと不要なトラブルに巻き込まれることが多い。
そのため彼女に限らず、エルフ領以外ではエルフは擬態魔法具やフードなどで容姿を隠すのが普通だ。
「……ねぇ、あんたのその仮面、ひょっとして侍?」
それは以前私が実行したクルブス山脈での奴隷救出作戦が実を結んだことを示す言葉だった。
私はうなずいた。
「ああ、そうだが、君は?」
イルク・フォルダンとしての私は彼女のその姿を知っているが、侍仮面としての私は知らない設定だ。
彼女は少し声を落として自己紹介をした。
「あたしはエルフ族の王女、ソフィ・エルリーンよ」
「ほう、まさか今日は皇女だけでなく、エルフ姫のお目にもかかれるとは、光栄だな」
一部の貴族間の派閥関係を強く意識している学生を除けば、学院生同士に上下関係はない。
侍仮面としての私は彼女に敬意を払う必要もないということだ。
「ケディアから聞いたわ、あんたたちが彼女を助けてくれたって」
「ケディア?」
「密猟者たちに捕まっていた私の仕女よ」
「なるほど、彼女のことは知らないが、それは良かった」
これは嘘だ、彼女を救うためにクルブス山脈に行ったと言っても過言ではない。
「他にもあんた達に救われたエルフはたくさんいるわ。
ケディアのためにも、エルフ族の同胞のためにも、礼を言わせて欲しい。
ありがとう」
ソフィはそういって頭を下げた。
イルク・フォルダンとして接していたときの彼女とは随分と違う印象だ。
ロイとの冒険で早くも成長したのか、それとも流石に自族の恩人に対しは強く出ないのか、私にはわからなかった。
私は手を振った。
「その必要はない。
誰かに感謝されたくてやっていることじゃない。
我々は自分たちの正義に従っているだけだ」
ロイは正義という言葉に反応した。
「自分たちの正義?」
「弱きを助け強きを挫く。
我々はあらゆる不当を正すために活動している」
「弱きを助け強きを挫く……」
前世では誰もが知っているだろうこのことわざだが、この世界では今までになかった言い回しだ。
ロイは何度もこの言葉をつぶやき、目を輝かせた。
随分とこのことわざを気に入ったようだ。
「素晴らしい考え方だ。
俺にもなにか手伝えることはないか?」
「ん?」
思わず声が出てしまった。
主人公を侍に加入させる?
考えたこともなかったが……ありか?
いや、即決するにはあまりに不安要素が多すぎる。
私は首を振って彼の申し出を断った。
「やめておけ。
我々の敵は強く、そして多い。
家族に危害が及ばないよう、こうして姿を隠して活動しているくらいだ。
それに、今はこういう話をしている場合じゃないだろう」
「……確かにそうだな」
ロイは渋々といった感じで引き下がった。
先ほどとは違い、ロイたち3人の私を見る目には明らかな敬意があった。
私がでっち上げた信念に惹かれているようだ。
どうやら私は侍の彼らのような強い正義感を持つお年頃の少年少女に対する魅力を侮っていたようだ。
我々はそこで一旦会話を中断し、野営地設営の手伝いに加わった。
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