バレンタイン②

「ここ、2年連続で出題されてる。今年も可能性はあるかも」

「だな。頭に入れておいて損は無いな」


【傾向と対策】にも抜かりは無い。

悠木先生は、入念に過去の出題傾向を調べ上げてくれていた。

自分が受験する訳でもないのに。

俺自身ももちろん、自分なりに過去の出題傾向を調べてはいたが、受験に【やり過ぎ】なんて言葉は、存在しないのだ。

悠木先生の助言を有り難く頂戴しながら、俺はいつもと変わらず、過去問集に向き合っていた。

ただ、1つだけ、今日は朝からずっと気になっていた。

どうも、悠木の様子がおかしい。

勉強を教えながら普通に爆睡する悠木先生は【おかしい】のがいつものことだが、今日の悠木はその点が【普通】なのだ。

大抵、少なくとも小一時間くらいは居眠りをしておかしくないのが、今日は1分も寝ていない。

加えて、どこかソワソワと落ち着きが無いように見える。


俺の受験が近づいてきて、緊張しているとか?

・・・・まさか、な。

俺に遠慮して、眠いの我慢してるとか?

・・・・それなら、有りうる、かも?


「悠木」

「えっ」

「眠いなら、寝ていいからな」

「・・・・うん」

「聞きたい事あったら起こすから」

「・・・・うん」


何とも歯切れの悪い、悠木の返事。

結局、帰る時間になるまで、悠木は一睡もしなかった。



「気を付けて帰れよ」

「うん」


バイクで寮まで送って行く、という俺の申し出は、いつも悠木に断られる。

こんなに勉強見て貰っているのに、せめて帰りくらいは送らせてほしいと、そう言っても、断られるのだ。

事故にでもあって受験ができなくなったら大変だからと。

結局今日も、いつも通り、帰る悠木を見送るべく玄関先に立っていると。


「・・・・これ」


手にした鞄の中から小さな包みを取り出し、悠木はそれを俺に押し付けてきた。


「えっ?なに?」

「頭使うと、糖分、消費するから」

「・・・・はっ?」

「じゃ」


あっけに取られている俺を放置して、悠木はさっさと玄関から出て行った。


「なんだよ、変な奴。・・・・変なのは前からだけど」


1人呟きながら部屋に戻り、何気なくカレンダーを見た俺は。


「マジか・・・・」


今日の日付は、2月14日。

包みの中身を見れば、そこには手作りと思われる、可愛らしいチョコレート菓子。

口に入れると、ほろ苦さの後に、じんわりとした甘さが口いっぱいに広がって。


「あ~・・・・幸せ」


思わず俺は、そう口にしていた。


別に、なんだっていいんだ。

これが、義理チョコだろうが、友チョコだろうが。

受験応援チョコだろうが。

そんなこと、どうだって、よかったんだ。

悠木からバレンタインにチョコを貰えたという事実だけで、俺は充分に幸せだった。

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