バレンタイン①
クリスマスが終われば、街全体が年末年始ムード、のみならず、既にバレンタインモードの店さえある。
商売人にとっては、書き入れ時のイベントだから仕方ないのだろうけど、受験真っ只中の受験生のとっては、そんなに急かしてくれるなよと、文句のひとつも言いたくなる。
この年末年始は、こちらに両親が来てくれたお陰で、俺は受験勉強に専念することができた。
本当に、両親の存在の有り難さが身に染みた。かあちゃんの手作りおせちにも、だいぶ癒された。
大きな声では言えないが、悠木に会えない寂しさも、両親の存在がだいぶ紛らわせてくれたように思う。
冬期講習で藤沢とは顔を合わせたが、それとこれとは話が別だ。
藤沢は好きだが、悠木の代わりには成り得ない。
代わりにされたところで、藤沢だって迷惑だろう。
・・・・いや、どうだろう?
あいつのことだ、ノリノリで悠木の代わりを引き受けかねない。
怖い怖い、冗談でもこんなこと、藤沢には言ってはいけない気がする。
それじゃなくても、あいつの距離感、たまにおかしいからな。
悠木にいらぬ誤解をされるのは、いい加減勘弁してほしい。
今年の初詣は、両親と一緒に行った。
昨年は随分と賑やかな初詣だったが、今年は静かなもんだ。
ま、当たり前だけどな。
俺、両親と一緒に初詣に出かけて、はしゃぐような年じゃねぇし。
ただ、おみくじは今年もしっかり引いた。
結果は幸先の良いことに、大吉だった。
【学業】実力を発揮できる。努力が必要。
【恋愛】真の想いは必ず通ず。
ここのおみくじは、よく当たるんだ。
よく、当たるんだよ。
だから俺、大学、受かるよな?
そんで、悠木のことも・・・・
まぁ、とりあえずは、受験が先だけど。
俺は、お守り代わりにおみくじを持ち歩くことにした。
年末年始の休みが終わると共に、両親はまた戻って行ったが、それからいくらも経たないうちに始業式を迎え、今度はラストスパートに悠木先生が付き合ってくれた。
モデルを引退した悠木は、仕事も無く、受験勉強も無いためか、たまに事務所の事務は手伝っているらしいが、割と時間の融通が利くらしい。
ああ、俺はなんて恵まれた受験生なんだろうと思う。
少しでも間違えると、スパルタ悠木先生に氷のような冷たい瞳で射抜かれ、容赦のない言葉を浴びせられるとしても、だ。
おかげで、大学入学共通テストは、かなりの手応えがあった。
あとは、志望校の入学試験を突破するのみ。
冬期講習の最中に受けた模試では、志望校全てがA判定。
だからと言って、気を抜くわけにはいかない。
『A判定に気を抜いて落ちる人は山ほどいる』
とは、塾講師の言葉。
俺は更に気を引き締めて、受験勉強に取り組んでいた。
そんな状態だからか。
しょっちゅう、悠木が側にいてくれるからか。
俺はすっかり、【バレンタイン】なんていうイベントの事は、頭から抜け落ちていた。
おまけに。
今年の【バレンタイン】当日は、日曜日。
学校以外出かけることの無い引きこもりの受験生には、まるで関係の無いイベントになるのも、仕方の無い事だろう。
さらに言うなら、俺には彼女がいる訳でもない。
・・・・好きな奴なら、いるけれど。
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