ホワイトデー③

「おいしい」


嬉しそうな笑顔で、悠木はイチゴのクレープをパクついていた。

にしても、悠木は食うのが早い。

いくらも経たないうちに、既に半分ほどを、胃の中に納めてしまっている。

いつ見ても、悠木の食いっぷりは、清々しいほどだ。


「こっちも、食うだろ?」


まだ口をつけていない、クリームチーズとブルーベリーのクレープを差し出すと、悠木は小首を傾げて俺を見た。


「しじょー、食べてない」

「ああ・・・・お前の食いっぷりに見惚れてた」

「・・・・」

「一応、誉めてんだぞ?ほら」


悠木の手からイチゴのクレープを取り、代わりにクリームチーズとブルーベリーのクレープを持たせる。


「おいしい」


早速パクつく悠木の顔を見ながら、俺も手にしたイチゴのクレープに口をつけた。


あまっ!

でも。

うまっ!


程よい甘味に、無意識に頬が緩む。


「しじょー?」

「なんだ?」

「味見」


言葉とともに、目の前にズイっと差し出される、食べかけのクレープ。

悠木の、いつになく柔らかな笑顔は、やはり、程よい甘さのせいなのだろう。

差し出されたクレープに一口かぶりつくと、ブルーベリーとクリームチーズと生クリームが絶妙に絡み合って、こちらもまた、なんとも言えない旨さだ。


「旨かったな」

「うん」

「どっちが旨かった?」

「どっちも」


悠木が食い終わったのと俺が食い終わったのは、ほぼ同時。


「しじょー、ありがと。ごちそうさま」


そう言う悠木の顔がうっすら赤く見えるのは、俺の気のせいだろうか?

気のせいだよな。

たかだか一緒にクレープ食ったくらいで・・・・


唐突に、顔がカッと熱を持ち始める。


食いかけ、食ったし、食わせて貰ったな、そういや。

なんかこれって・・・・


デートみたくねっ?!


「いや、まあ、ああ」


もはや、自分でも何を言っているのかわからない状態の俺は、焦った挙げ句に


「また、行こうな」


などと思わず口走り、隣にいる悠木の顔をまともに見ることもできず、ひとり、パニックに陥っていたのだった。


・・・・俺、こんなんでこの後、まともに勉強なんかできるんだろうか・・・・

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