三年目
練習①
4月。
始業式の日。
早いもので、もう高校も最終学年だ。
悠木はもとより、藤沢も俺も、2年から3年への進級は、余裕だった。
夏川は・・・・実は結構、危うかったみたいだけど。
それでも、悠木と藤沢のお陰で、何とか乗り切ったらしい。
春休み中に誕生日を迎えた夏川と、3月の期末直前に誕生日を迎えていた藤沢の誕生会を、俺の家でやったのだが、その際に夏川自身が言っていた。
良かったな、夏川。
つーか、藤沢よ。
いい加減、自分達の誕生日くらい、二人きりで祝ってやれ。
俺自身はそう思っていたけれど。
主役の2人がすごく楽しそうだったから。
ま、いいのかな。
うちの学校は、二年から三年への進級時のクラス替えは、無い。
だから、クラスのメンバーも、去年と同じ。
つまり。
俺達4人は、バラけたままだ。
今年は遂に受験の年だし。
クラスがバラけていたって、俺達の仲がどうなる訳でもないし。
別に、いいんだけど。
それでも。
悠木と一緒のクラスになってみたかったな。
などと。
俺は頭の片隅のどこかで、思っていた。
春休みの間、俺の家に来るたびに、悠木は駐車スペースに止めてあるバイクに目を留めていた。
多分、去年の俺が、『来年』、つまり、今年、悠木を後ろに乗せてやると、約束をしたからだろう。
バイクの後部座席をチラ見しては、ちゃんと見ていないと気づかない程度に、瞳を細めて笑っている。
・・・・そんなに楽しみなのか?
なんか、すげープレッシャーなんだけど・・・・
免許を取ってから、気分転換に1人であちこち乗り回していたから、運転自体には自信が無い訳ではないけれども、1人で気ままに運転するのと、後ろに人を乗せて運転するのとでは、訳が違う。
バイク事故なんて、怪我とセットだ。運が悪けりゃ、死亡とセットだ。
悠木を後ろに乗せるなら、まず、誰かを後ろに乗せた状態で、何回か練習をしておきたい。
悠木を危ない目には合わせたくないし、なにしろあいつはモデルだ。かすり傷1つ、つける訳にはいかないから。
しかも、その『誰か』は、バイクの後ろに乗り馴れている奴で、且つ、頑丈な体の持ち主であって欲しい。
万が一の時の為にも。
「よっ、四条!一緒に帰ろうぜ」
丁度いいところに、頑丈な体の持ち主である藤沢がやってきた。
でも、頑丈なだけじゃ、な。
いくら藤沢が頑丈だからって、危ない目には合わせたくねぇし。
俺の小さな溜息に目ざとく気付いた藤沢が、心配そうに顔を曇らせる。
「どうした?腹でも壊したか?」
「なんでだよ」
「元気なさそうだから」
心配してくれるのはありがたいけど。
それ以外の理由は、思い浮かばないのか?
「腹はなんともねぇよ」
「じゃ、頭か?」
「お前、ケンカ売ってる?」
「いや、心配してるんだけど」
藤沢は、本当に心配そうな顔をして俺を見ていた。
そうだ。
藤沢は、いい奴だった。
ただ。
ピュアが過ぎるだけだ。
「頭もなんともねぇよ」
「じゃ、どうした?」
「ん~」
とりあえず鞄を持ち、俺は藤沢と一緒に学校を出た。
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