初詣へ①
「せっかくだから、初詣行こうぜ」
年越し直後。
やっとの思いで起こした悠木と一緒に戻ったリビングで、顔を赤くした藤沢が、突然そんな事を言い始めた。
はは~ん、やっぱりな。
隣の夏川も、なんだか妙に大人しいし。
人んちで、何してくれてんだよ、まったく。
まぁ、藤沢なら、いいけどさ。
おそらく、藤沢としては精一杯の、照れ隠しの提案だったんだろう。
藤沢の一言で、俺達4人は朝まで各々睡眠を取ったあと、近所の神社へ初詣に行くことになった。
もちろん。
藤沢と俺は、俺の部屋で。
夏川と悠木は、和室で。
悠木には念のため、メガネをしたまま寝るように言って。
「藤沢、悪い。うち、客用の布団、二組しか無い」
和室にもう一組、夏川用の布団を敷き終えて部屋に戻ると、藤沢がセーターを脱いで半袖Tシャツ姿で、俺を待っていた。
一応、ここはレディーファーストだろうと、客用の布団は夏川と悠木に使わせたから、あとは俺のベッドが一つあるだけだ。
だから、藤沢には悪いけど、絨毯の上に毛布だけで寝て貰おうと思っていたのだが。
「ああ、気にするな。俺、狭くても全然、問題無いから」
「え?」
「早く寝ようぜ」
そう言って、藤沢はさっさと俺のベッドに潜り込む。
俺は目が点になった。
ウソだろ?
マジかっ?!
「どうした、四条?」
まさかの、藤沢との添い寝っ?!
しかも、年の初っ端の、元日からっ?!
「なぁ、藤沢」
「ん?」
「やっぱお前、あっちで夏川と寝てくれば?」
「ばっ・・・・なななななに言ってんだ、四条っ!」
耳の先まで真っ赤にして、藤沢が目を剥いて俺を見る。
その反応に少しだけ安心した俺は、笑いながら藤沢が待つベッドに潜り込んだ。
「ほんと真面目な、お前」
「うるせぇっ」
「そんなお前、嫌いじゃねぇぞ」
「ふんっ」
ふて腐れたのか照れ隠しなのか。
藤沢は、壁の方を向いてしまい、俺に背中を向けたまま。
いくらも経たないうちに、小さなイビキが聞こえてきた。
藤沢が先に入っていたベッドの中は、いつものようなヒヤッとした感触が無く。
藤沢よ、湯たんぽか、お前は。
程よい温もりを感じながら、俺もいつの間にか、眠りに落ちていたのだった。
やがて迎えた朝。
「四条っ!ねぇっ、四条ってばっ!悠木、ぜんっぜん、起きないんだけどっ・・・・ってっ!ちょっ、あんたたち、どーゆー関係っ?!」
夏川のけたたましい声に叩き起こされた俺が、まず最初に目にしたものは。
・・・・んっ?
真っ白なTシャツの襟もとと、褐色の首筋。
・・・・んんっ?
少し視線を上げた先には。
「わっ!!」
俺は慌ててベッドから飛び起きた。
あろうことか俺は、藤沢に正面から抱きしめられながら、眠っていたらしい。
「あ~・・・・もう、朝か?」
ベッドの中では、寝ぼけ眼の藤沢が、まだ寝足りなさそうな顔をしている。
「悠木か?悠木だな。分かった。俺が起こしてくる。任せとけ」
ドン引きしている夏川と寝ぼけたままの藤沢を部屋に残し、俺は急いで和室に向かった。
”ちょっと~っ、藤沢っ!起きなさーいっ!!”
”いてっ、なんだよ夏川っ、ちょっ・・・・やめろって!”
”うるさいっ!藤沢のばかっ!”
あー・・・・ありゃ、相当夏川にやられそうだな・・・・
未だ眠りこけている悠木の幸せそうな寝顔を見ながら、俺はしばらくの間、部屋から聞こえて来る藤沢と夏川のドタバタ劇を楽しんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます