バレンタイン②
小さな溜め息を漏らした俺の背中に、馴れようとしたって馴れることのできない衝撃が、打ち下ろされる。
「っっってえええっっ!」
振り返らずとも、分かる。
犯人は、夏川だ。
「てめっ、何回言えばっ・・・・へっ?!」
頭に来て振り返った俺の目と鼻の先。
そこには、可愛らしいラッピングが施されたチョコレートが掲げられていた。
「はい。これ、四条の」
「・・・・マジ?」
「もちろん。この亜由実さんが腕によりをかけて作ったんだからね。ちゃんと味わいなさいよ?」
「手作りかよ!すげ・・・・」
夏川から受け取ったチョコを、マジマジと見てしまう。
確かに今までだって、毎年チョコは貰っていたけど。
さすがに手作りは、初めてだ。
「いや~、大変だったんだよ?ルイに贈るチョコ作るの。もう何回も失敗してさ。でも、お陰でサイッコーのチョコができたの!はぁ・・・・私のチョコ、ちゃんと食べてくれるかなぁ、ルイ・・・・」
「夏川、もしかしてこれって・・・・」
「うん、失敗作。でも安心して、味は保証するから。それに、失敗作の中でも、一番出来のいいやつだし」
なんだ、そーゆーことかよ。
俺のさっきの喜びを返せ、バカ。
口には出さずに心の中だけで毒づき、俺は改めて手にしたチョコを見る。
とはいえ。
やっぱり、初めて貰う手作りのチョコってのは、それなりに嬉しいもんだったりする。
・・・・いやまて。
夏川のことだ。
実はとんでもない激辛のチョコとかじゃ、ねぇだろうな、コレ。
ジトッとした目で夏川を見ていると、気付いた夏川が不満そうに頬を膨らませた。
「なによー、不満なの?」
「そうじゃねぇけど」
「大丈夫よ、ワサビとか辛子なんて、入れてないから」
「・・・・お前が言うと、入れているようにしか聞こえねぇんだよ・・・・」
「失礼ねっ!藤沢なんか、その場で食べてくれたわよっ!」
「マジでっ?!」
藤沢がその場で食べた事に驚いた訳ではなく。
夏川が藤沢にチョコを渡したという事実に、俺は驚いた訳で。
「で、どうだった?!」
「なにが?」
「藤沢だよ!」
「おいしい、って、言ってくれたわよ?」
「そうじゃなくてっ!」
そうこうしている内に、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「なんでもいいけど、ちゃんと食べてよ。で、感想聞かせてね」
そう言って、夏川は自分のクラスに戻って行く。
俺も急いで自分のクラスに向かいながら、久し振りのワクワク感を覚えていた。
藤沢、喜んだだろうな。
良かったな、藤沢。
後で揶揄いにでも、行ってやろう。
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