バレンタイン③
晩飯も食ったし。
そろそろ、風呂にでも入るか。
そう思いながらも、ダラダラとテレビを見ていると、スマホに着信が入った。
悠木からの電話だ。
「どうした?」
”今、行ってもいいか?”
時計を見れば、まだ8時を少し回ったところ。
「ああ、いいけど」
”じゃ”
そのまま、悠木は電話を切る。
相変わらず、要件のみの、素っ気ない電話だ。
周りがガヤガヤしていたから、もしかしたらイベントとやらが終わったばかりなのかもしれない。
とりあえず、玄米茶の用意でもしておいてやるか。
と、立ち上がったとたんに、玄関のチャイムが鳴った。
えっ?まさか悠木?
もう来たのか?
電話があってから、ものの数分も経っていないのに。
だが、開けた玄関の先に立っていたのは、両手に紙袋を持ったルイ姿の悠木だった。
「・・・・随分早かったな」
驚きながらも、ルイ姿の悠木を招き入れる。
もう、この姿も大分見慣れてはいるものの、あのグレーの瞳が露わになっているせいか、何故だ腹の底がソワソワするような、そんな感覚に陥ってしまう。
「真菜さんに、送ってもらった。車で」
「そっか」
どうやら俺は、真菜さんには信用されているらしい。
じゃなきゃ、悠木が女だと分かっている真菜さんが、男の一人暮らしの家に、夜一人で送り届けるなんてこと、する訳無いだろうから。
一旦紙袋を置いて、悠木が和室の仏壇に手を合わせている間に、玄米茶を入れ部屋に運ぶ。
ほどなくして、紙袋を持ったルイ姿の悠木が、俺の部屋に入って来た。
「しじょー・・・・これ、どうしよう」
困惑顔で、ルイ姿の悠木が手にした紙袋を俺に突き出す。
だが俺は、その紙袋よりも、どうしてもグレーの瞳が気になってしまっていた。
今俺の前にいるのは悠木であることは分かっているのに、まるで別人と一緒にいるような、不思議な感覚。
そんな綺麗な瞳で、そんなキレイな顔で、そんな困った顔なんてされたら、たとえ相手が男であったとしても、ドキドキしてしまうだろっ!
・・・・いや、違う。
悠木だからか?
相手が悠木だから、俺はこんなにドキドキしてしまうのか?
「しじょー?」
「ああ、どれ、見せてみろ」
動揺を悟られないように、俺は悠木から紙袋を受け取った。
両手が空いた悠木は、すかさず髪に指を突っ込んでクシャクシャとかき回し、ダサメガネをかけて、いつもの悠木の姿に戻る。
「すげーな・・・・これ、全部貰ったのか?」
「うん。まだある」
「マジで?!」
「うん」
紙袋一杯に入っていたのは、たくさんのチョコレート。それから、ルイのファンの女子たちからのプレゼントやら手紙やら。
「食べきれない」
困ったようにそう言って、悠木は玄米茶を啜った。
やっと一息つけたのか、ふぅ、と息を吐き出しながら、口元に微かな笑みを浮かべている。
「だろうな」
答えながら紙袋の中を見ているうち、中に見覚えのあるラッピングを見つけ、取り出してみると。
小洒落た封筒つきのそのチョコは、やはり夏川からのチョコだった。
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