だれっ?!

悠木の奴、夜来るって言ってたけど・・・・


つけっぱなしのテレビを観ているうちに、気づけばもう、時間は21時過ぎ。


「時間、聞いときゃ良かったなぁ・・・・そういや、あいつの連絡先も知らないし」


もしかして、約束を忘れてるとか?

いやいや、その前に、実はまだあの時はちゃんと起きてなくて、寝言を言ってただけとか?


そんなことを思い始めたちょうどその時、玄関のチャイムが鳴った。

古い家だから、インターフォンも何も無い。

よって、玄関まで行かなければ、誰が来たのかもわからない。

でも、こんな時間に来る奴なんて、普通はいないし。

きっと悠木だろうと。

俺は、なんの警戒もせずにドアを開けた。


「おせーよ、ゆう・・・・えっ?」


言いかけていた文句が、喉の奥へと吸い込まれる。

目の前に立っていたのは、悠木ではなく、どこぞのファッション雑誌から飛び出してきたのではないかと思うほどの、見たこともないような超絶イケメン。


えっ?!

だれっ?!


相手があまりにイケメンのせいか、俺はどうやらビビってしまったらしい。

だって、仕方ないだろ。

何の心構えもない時に、芸能人とバッタリ遭遇しちまったようなもんだぞ?

しかも、超至近距離の、目の前で。


「あの・・・・どちら様で・・・・?」

「オレ」


・・・・もしや新手の【オレオレ詐欺】かっ?!

こんな【オレオレ詐欺】なんて、聞いたことないけどっ!


思わず警戒して扉を閉じようとする俺に、そいつは焦ったように言った。


「悠木だ。悪い、遅くなった」


確かに。

この、ボソボソしたしゃべり方にも声にも、聞き覚えはある。

でも。

だからって。


信じられるかよっ!

この超絶イケメンが、あの悠木だなんてっ!


そう思って再度扉を閉めようとした時。

俺をじっと見る超絶イケメンとガッツリ目があった。

その瞳。

犯罪級の、綺麗なグレーの瞳を見た時。


ああ、こいつは間違いなく、あの悠木だ。


ストンと素直に納得することができ、俺はその超絶イケメンを家の中に招き入れたのだった。

その超絶イケメンが悠木である証拠に。

家に上がるとすぐ、超絶イケメンは和室に入り、仏壇の前で手を合わせていた。


「撮影が、なかなか終わらなかったんだ」


俺の部屋に入ると、超絶イケメンは、いつもの悠木の場所に座った。

うん、間違いなく、こいつは悠木だ。


「そのまま来たから、こんなカッコ」


嫌そうに顔をしかめ、超絶イケメンはキレイにセットされていた頭をクシャクシャとかき回す。

そして、仕上げとばかりに、いつものダサメガネを掛けて、俺を見た。

そこにいたのは、俺の知ってる、いつもの悠木だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る