第21話 泉上マサト

 泉上いずみかみマサトの心は、凍てついてはいない。

 寒そうな人々が歩いている。

 駅前の広場で、一人で仁王立ちする女性。

 そのミドルヘアの女性は、右手に持つカードを見せた。

 そして、黒い服の男性も、呼応するようにカードを見せる。

 それを、マサトが陰から見ていた。

「きなさい。カンサ・ジュラ!」

「カンサ・フェブ!」

 イマジン空間が展開され、辺りが紫色に染まっていく。カンサとカンサ使いをのぞいて。

 女性と戦う、男性。

 正確には、女性の操るカンサと戦う、男性の操るカンサ。鎧姿で武器を持っている。

 槍と剣。リーチの差を感じさせない間合いの詰めかたで、ジュラに攻め寄るフェブ。

「名前は聞かないのか?」

「なら、お聞きしましょうか」

「オレは、楠堂くすどうミズチ。お前を倒す者だ」

 その言葉に、女性が反応する。

「わらわは、梛川なぎかわササメ。覚えなさい!」

 互角の戦いを見せる両者。

 そこへ、マサトがやってきた。もちろん、紫色に染まっていない。

「誰だ、お前は」

泉上いずみかみマサト。今日の運勢は……凶か」

 携帯電話を操作していたマサト。今日の運勢をぼそりとつぶやいた。

 男性は、運勢なんて信じてはいなかった。それでも、一縷いちるのぞみをかけて、調べていた。

 一時休戦とばかりに戦いをやめる、ジュラとフェブ。

「運勢?」

 ササメの問いに答えず、マサトが召喚する。

「いくぞ。カンサロウケ・オーガ」

 カンサロウケが召喚された。カンサと違い、鎧はシャープになっている。

 オーガの武器はない。盾のみ。

 マサトの右手にはカンサのカードがある。そして、左手にロウケのカードを持っていた。

「なんだ、これは」

「知らん。知らんぞ」

 ミズチもササメも、狼狽ろうばいしていた。その感情は、恐怖かもしれない。

「いけ」

 マサトの言葉で、あっというまに接近するオーガ。カシャンカシャンとすこし軽い音が響く。パンチで、公園の東屋あずまやを吹き飛ばした。

「こいつ」

「なんてやつだ」

 圧倒的な強さで、ジュラとフェブが追い詰められていく。

 カシャッ。オーガの攻撃で、周りの建物が壊れた。ゴゴゴゴと地響きのような音がこだまする。

「なぜだ。盾だけの相手に」

「くっ」

 たまらず撤退する二人。

 圧勝したマサトは、あまり嬉しくなかった。むしろ悲しかった。結末は見えていた。運勢よりも確実なものだ。

 カードを二枚ともしまうマサト。

 イマジン空間が元に戻りはじめ、色も戻っていく。壊れていたはずの建物も元に戻った。

 そして、別の日。

 イマジン空間のカフェ跡地にて。

 ササメと戦うアラタ。

 陰から見ていたので、カンサ使いの名前は把握はあくしている。マサトが出るタイミングをうかがっていた。

 お互いに召喚した鎧、カンサを使って、激しい戦いを繰り広げている。

「そういえば、寒くないな」

「この妙な空間の力であろう」

 話しながら戦う二人のもとに現れたのは、マサト。

「誰だ?」

「お、お前は――」

 ササメの言葉をさえぎり、マサトが口を開く。

泉上いずみかみマサト。今日の運勢は……調べるまでもなさそうだ」

「カンサ使いか」

 アラタが口にした。紫色に染まっていないので一目でわかるというのに。面白いやつだ、と、マサトは思った。

楠堂くすどうミズチから聞いていないのか。兜山かぶとやまアラタ」

 ササメが、フルネームで呼んだ。

「ミズチからも、ネネからも聞いてないぞ」

 アラタは戸惑っているようだ。追い打ちをかけるように、マサトがカードを取り出す。右手にカンサのカード。そして、左手にロウケのカードを持つ。

「カンサロウケ・オーガ!」

「ロウケ?」

 アラタの問いに答える人はいない。マサトは、カンサロウケに指示を出していた。力の差を見せつけなければならない。

 ササメの目があちこちを向いた。

「速い」

「なんだ、こいつは」

 マサトのカンサロウケ・オーガは、強い。シャープな見た目のとおり、動きが速い。しかも、盾しか持っていないのに攻撃力まで高い。

 ラストアーツを使うまでもなく、ジュラが撤退に追い込まれる。とうぜん、ササメが去っていく。

「覚えておれ」

 ジャニュは、構えたまま。アラタが、いぶかしげに問いただす。

「なぜ、おれを見逃す?」

「話をするためさ」

 マサトは構えていない。友好的だと態度で示していた。ところが、そのときマモノが現れた。エイのような見た目。

「なにっ」

 反応が遅れたアラタを制して、マサトが告げる。

「見ていろ。ラストアーツ!」

 カンサロウケ・オーガの特別な大技。シールドバッシュで、エイのようなマモノはあっという間に倒された。

 大きな爆発が起こる。カフェの跡地で。

「す、すげぇ」

 カンサをしまう二人。

 消えていくイマジン空間。

「さて、話をしようか」

 マサトは、言うべき言葉をまとめていた。取捨選択しゅしゃせんたくが重要だと、気づいているからだ。

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