第14話 檀林ロクロウ

 檀林だんばやしロクロウは、憂鬱ゆううつだった。

 大事な仕事を任せてもらえない。それが、屈辱くつじょくなのだ。

 なんでも一人でこなせるだけの力を持っているはず、と、自身じしん過大評価かだいひょうかしていた。

 そんなある日。ロクロウは、道ばたで偶然カードを拾った。

「ジューン?」

 その瞬間、バトルロイヤルについて説明する声が聞こえた。

 願いを叶えることができる。それが、ロクロウを動かした。

 まさに天啓てんけいだった。

 これで、自分の力を示すことができる。ロクロウは、知らず知らずのうちに口角を上げていた。

 ところが、その思いはすぐに揺らぐことになる。

 公園の近くに広がる、紫色のドーム。イマジン空間だ。

 カードを手にしたことで、ロクロウにも見えるようになった。

「……」

 ロクロウは、何も言わなかった。いや、何も言えなかった。

 あそこで戦いが繰り広げられている。カンサを召喚して、目にもとまらぬ戦いが。

 そう考えると、足がすくんで動けなかった。

 冷や汗が流れ、おのれの無力さを思い知ることになる。

 ロクロウは、自室に戻った。

 その後も、何度か遠くからイマジン空間を見た。

「あの場所で、戦ってるのか」

 やはり、近づくことができない。

 人付き合いのないロクロウは、誰かに相談することもできなかった。

 ただ、ときが流れるのを待っていた。

 そこへ、新たなカンサ使いが現れることになる。

 梛川なぎかわササメ。ロクロウのつとめる会社の代表取締役。いわゆる社長である。

 広大な会社の入り口で、二人が話す。

「そのカードを持っておるということは」

「社長。じつは――」

「よい。みなまで言うな」

 ササメは、ミドルヘアをかきあげた。

檀林だんばやしロクロウ。わらわと戦ってみせよ」

 社長命令。社員は、応じるしかない。ロクロウは、腹をくくった。初めてカンサを召喚する。

「いきます。カンサ・ジューン!」

「ゆけ。カンサ・ジュラ!」

 イマジン空間が広がり、辺りが紫色に染まる。染まらないのは、カンサ使いとカンサだけ。

 ジューンの武器は、ハンマー。典型的なパワータイプだ。

 ジュラの武器は、槍。

 ガシャンガシャンと音が鳴る。カンサ同士の戦いが始まった。

 すぐに、ロクロウは痛みを覚えた。恐怖が襲ってくる。だが、まだ戦いをやめるわけにはいかない。命令がないからだ。

「つっ」

「なるほど。ダメージが連動しているようだ」

 軽く戦って、それぞれカンサをしまう。イマジン空間は消えていった。

「お前たちだな」

 黒い服の男性が、イマジン空間につられてやってきた。

 そして、何も言わず、ロクロウはその男性の前に立った。

「……」

「言葉は、いらないか」

「さあ。カンサ・ジューン!」

「カンサ・フェブ!」

 黒い服の男性と戦うロクロウ。

 といっても、戦っているのは鎧姿のカンサだ。金属音をたてながら動いている。

 リーチの差を活かし、フェブにうまく立ち回られる。剣とハンマーでは相性が悪い。周りの建物を壊しながら、じょじょにジューンは追い詰められていった。

「ゆくのだ。カンサ・ジュラ!」

 そこに、ササメが加勢した。

「なんだと」

卑怯ひきょうですね。社長」

 ニヒルな笑みを浮かべながら、ロクロウが述べた。内心は穏やかではない。もっと早く助けてほしかった。だが、黙っていた。

「部下を見捨てることなどできるか」

「よく言う。女狐めぎつねめ」

 軽口をたたきながらも、ピンチになる黒い服の男性。

 そこへ、別の男性がやってきた。

「新しいカンサ使いか。よし。カンサ・ジャニュ!」

 ジュラの武器は槍。間合いを取って戦うと、ジャニュとフェブには有利に立ち回ることができる。剣で戦うには接近するしかないからだ。

「余計なことを」

「うるさいぞ、ミズチ」

 ダメージを受けているジューンの相手はあまりせず、二体はジュラに集中攻撃を仕掛けた。

卑怯ひきょうな」

「お前が言うな」

「まったくだぜ」

 フェブが牽制し、ジャニュが一撃与えた。じょじょにジュラを押していく。

 ミズチともう一人の男性は二人で戦い、ササメたちを撤退に追い込んだ。

「くぅ。覚えておれ」

「社長。待ってください」

 ロクロウは、ササメをかばうことができなかった。命令がなくても、それくらいはやらなくてはならない。しばらく、悔やむことになる。

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