異世界に転移したら(番外編)
ヨートロー
転移前の事
第1話 部活編
高校に入学して数日が経った。
俺は結局テニス部に入った。ちなみに硬式である。
光弥はというと………
「走るの怠いよー、コートに立ちたいよー」
「新入部員が体力作りからなのは常識だろ。インハイ目の前だから先輩たち気合入っててコート空いてないし、俺らには碌な戦績だってないんだから」
俺と同じテニス部である。
俺と光弥は中学から硬式をやっていて、俺はともかく光弥はかなり出来るほうだった。光弥が途中でバックレたりしなければ全中だって行けただろう。
『飽きたから』などとその時は言っていたし、高校でも他に入ろうと思えばいくらでもできただろうがそれでもテニス部を選んだのは、俺が入るからではなくテニスが単純に好きだからだろう。
ぐだぐだ言いながらもハイペースな校舎周りに余裕でついて行っているのがむかつく。こっちは受験期間中もランニングしていてやっとなのに。
走り込み数種が終わると次は声出しをしながらの素振りだ。
ちゃんと腹の底から声を出していないとみなされるたびに素振りの回数が増えていく。最初は声を出さず先輩に注意されていた奴も数日経った今ではかなり出すようになった。光弥は最初から先輩もビビるほどの大声を出していた。
今回は20回増えた程度で済み、次は筋トレになる。
腹筋、背筋、体幹、腕立てを何セットかこなしてコートの前に集合。試合の応援と審判の練習をやりコート整備で部活は終了する。
日が落ちると冷え込む春の空気も運動で火照った体には心地よく感じる。
「いつになったらコートで球打てんだろうなー」
「3年が引退すれば入れるって。ここ公立で強くないし5月ごろには入れんじゃない?」
「5月かぁ」
俺と光弥は家が隣で高校も目と鼻の先だ。自転車を使うまでもない距離を二人でたらたらと歩いていく。
担任の悪口や先輩の陰口を言ったりして気づけば家に着いていた。
光弥の家は、部屋の明かりが点いていなかった。
それは俺にとっても見慣れた光景だったけど、いつも見るたびに胸が締まる思いがする。
「じゃ、また明日」
そう言って手をあげた光弥の顔はいつものごとく何も気にしていない顔だった。
「おう」
その手に軽くハイタッチをして同時にそれぞれの家の門を通った。
「ただいまー」
「お帰り、部活どうだった?」
「トレーニングだった。先輩の機嫌がよくて軽く済んだ」
料理の支度が丁度終わったらしい母が玄関まで出迎えてくれた。
満面の笑みをうかべているので何か良いことがあったのだろう。
多分珍しく父が何かしたに違いない。
この人は父絡みのことでコロコロ表情が変わるから。
「今日はハンバーグだよ。お父さんが作ったのだけど」
「そりゃあ楽しみ」
本当に楽しみだ。
父は言い意味で男らしいので料理をさせるとめちゃめちゃこだわるのだ。
ハンバーグはめっちゃ美味かった。
俺は知らなかった。
この日常もあと数日だなんて。
俺もまた、あの時の光弥の様に突然奪われることになるなんて。
知る由もなかったのだ。
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