清涼

僕と岩下さんは無事に北朝鮮軍の将校から逃げることができた。

川面に反射する太陽の光が眩しい。

「ここからさきは川を渡るしかないね」

岩下さんがくたびれた顔で言う。

ここは何処だろう?スマホで現在地を確認すると豆満江と表示された。

豆満江は中国と北朝鮮を分ける国境線になっている。

川原では様々な大きさの石が転がっている。

こんな猛暑の中でよく僕達は逃げられた。

「流されたくないね。私が行く」

岩下さんはシャワーサンダルを脱いで川の水にゆっくりと足をつける。

川から吹く風が岩下さんの髪をなびかせる。

岩下さんは無事に向こう岸まで泳いで渡れた。

川の水はそれほど深くないらしい。

「君もここまで来なよ」

向こう岸では岩下さんが手を降っている。

僕はシャワーサンダルを脱いで右手に持つ。暑さのせいで頭が痛い。

水に足を浸すと涼しげな気分になった。

「頑張れ。もう少し」

岩下さんが僕を待っている。

僕も無事に泳いで彼女の待つ向こう岸まで渡れた。

岩下さんは川の石に腰掛けていた。岩下さんは自分のシャワーサンダルをナップサックの隣に置いていた。ナップサックの中にはスマホ、タブレット、僅かな食料だけだ。スマホもタブレットも故障していなかったのは幸運だった。僕は自分のシャワーサンダルを岩下さんのシャワーサンダルの隣に置いた。

「お腹空いたね」

僕と岩下さんは乾パンを食べた。本当はラーメンとか食べたいんだけど。

「岩下さん、昨日から変だよ」

僕は岩下さんに愚痴をこぼす。昨日からカンブリア紀にタイムスリップしたり、北朝鮮に迷い込んだりした。

朝鮮労働党から睨まれたら一巻の終わりだ。

岩下さんが僕の髪をわしゃわしゃと撫でる。

「大丈夫だよ。私は君のことが好きだよ」

僕は彼女の言葉を聞いて顔から火が出そうになった。

僕は岩下さんのことが好きだ。彼女がいれば何も怖くない気がした。



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