懺悔

「ほら、シャワー浴びて。キミの服は洗濯しておくから、適当にそこら辺に置いておいていいよ。これ、僕の服。ちょっと大きいけど、我慢して。」

相変わらず何の表情も無い少年に、適当な部屋着を押し付けて、風呂場へと誘導する。

ありふれた、どこにでもある黒のTシャツと、カーキ色のハーフパンツだ。

下着は一応、新品のものをおろしてやった。

彼女が選んでくれた、僕が履くにはあまりに可愛らしすぎる、キャラクターのトランクス。僕よりもよほど、この少年の方がお似合いだ。


彼が風呂場に入ったのを確認して、彼の脱ぎ捨てた服を回収し、洗濯機に放り込む。

ついでに、自分の分の洗濯もしてしまおう。

会社には、今日は休む旨連絡を入れた。

さすがに、見知らぬ少年を拾ったためだ、とは言えないので、そこは僕自身の体調不良ということにして。

婚約したことは、もともと会社の誰にも言ってなかったから、婚約解消を伝える必要もない。

この点、僕は自分を誉めてやりたい。

今この状況になって、改めて思う。

もし会社の誰か一人にでも婚約していたことを伝えてしまっていたら、と思うと、心の底からゾッとする。

しばらくの間、きっと腫れ物扱いされること、間違いなしだっただろう。

でも、何故僕は、会社の誰にも婚約したことを話さなかったのだろうか。

会社だけではない。

友人知人、親親戚の誰にも、話してはいなかった。

…もしかして、僕は最初から、こうなることを予想していたのかもしれない。

ふと、そんなことを思った。


彼はきっと、腹が減っているはずだ。

何故だかは分からないが、あれだけ冷えていたら、きっと温かいものが食べたいだろう。

洗濯が終わるのを待つ間、僕は冷蔵庫の中にあった残り物で、即席のスープを作った。

彼がシャワーを浴び終えて出てきたら、素麺でも茹でて、スープの中に入れてやれば、少しは腹の足しになるだろう。

もし、彼女がまだここにいたならば、もっとマシなものを作ってくれたかもしれないが、今更そんなことを言ったところで、何がどう変わるわけでもない。

でも僕は、心の底から、彼女に申し訳ないと思っている。

1年と4ヶ月。

確実に、僕は彼女の時間を無駄にしてしまったのだから。

適齢期と呼ばれる女性の時間は、驚くほどに短い。

子供を望む女性にとっては、特に。

彼女は、ごく普通の家庭を持つことを望んでいた。

その、ごく普通の家庭にはきっと、僕との子供の姿も思い描いていたはずだ。

彼女は、子供が好きだったから。

…僕は、彼女と付き合うべきじゃなかった。

彼女と付き合う資格など、持ち合わせていない人間だったのに。

今更ながらに、後悔の念が込み上げてくる。

手元には、野菜を刻むのに使った、家庭用の小振りの包丁。

彼女がこの新居への引っ越しの時に、購入したものだ。

鈍い光をはね返す刃は、まだ殆ど使われていないせいか、切れ味は抜群だ。

抗いがたいこの誘惑を、僕は以前にも経験している。

その時は確か、ちょうど帰って来た母さんに見つかり、血相を変えて止められたっけ。

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